2022 年 100 巻 1 号 p. 257-283
本研究は、日本における冬季極端降雪と極端降水の発生に対してマッデンジュリアン振動 (MJO)が有意な影響を及ぼしている事を、観測データ及び地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)を用いた解析により明らかにした。d4PDFの全球および高解像度の領域モデルによる大規模アンサンブルシミュレーションの解析により、MJOに伴う日本における極端気象の発生確率を定量的に評価し、地理的分布の違いを明らかにする事が初めて可能となった。d4PDFの全球シミュレーションは、MJO及び、北太平洋域から北米領域におけるMJOテレコネクションを良く再現する事を示した。
MJOの位相ごとに冬季極端降雪(降水)の発生確率を評価したところ、以下の3つの結果が得られた。(1) 北西日本域における日本海側(SJA)の極端降雪発生確率は、MJOが海大陸から西太平洋で活発な位相で有意に約20%増加し、MJOがインド洋で活発な位相で30−40%減少する; (2) 日本の太平洋側 (PAC)の極端降水は、MJOがインド洋で活発な位相で40-50%増加し、MJOが西太平洋で活発な時は約30%減少する; (3) 関東地方(Kanto) の極端降雪は、MJOが東部インド洋から海大陸で活発な位相で30-45%増加する。
3つの領域(SJA, PAC、及びKanto)における極端現象は、MJOに関係した異なるプロセスで発生する。MJOにより東シベリア域でブロッキングの頻度が増加し、シベリアから日本への上層トラフを伴う顕著な寒気移流が強化されることにより、SJAの極端降雪が促進される。PACの極端降水やKantoの極端降雪の発生には、MJOに伴う水蒸気フラックス収束の強化による、ストームトラック活動や南岸低気圧の急発達を促進する効果が重要である。さらにKantoの降雪は、MJOに関係したブロッキングからの寒気流入が部分的に寄与している。