2022 年 100 巻 3 号 p. 475-492
ジャカルタにおける1日より短期間の極端降水には、局地的な気温、季節的な熱帯モンスーン循環、その他の環境要因に関連した傾向がある。1900年から2010年の間の81年分の時間雨量解析から、雨季の短時間降雨イベントの回数がほぼ倍増したことを示す。最近数十年の降雨は、それ以前の数十年と比較して強度は強く、継続時間は短いことがわかる。これらの短時間降雨は通常午後から深夜にかけて、または早朝に発生する。最近約100年間の短時間降雨特性の変化の一因は、ジャカルタ市街地の地表環境の変化によるものと考えられる。近年の気温上昇と地表面舗装による乾燥化は、大気中の水分量のわずかな上昇と相まって、大気対流を激しくしている。2002~2016年の雨量計データと高層気象観測の比較から、都市化による市内地表面温度上昇とそれに伴う大気水分増加により対流有効位置エネルギー(CAPE)が増加し、強い降水の発生が促進されることが明らかになった。気温上昇に伴う雨量増加がクラウジウス・クラペイロン(CC)関係式から予想される飽和水蒸気量増加以上になるのは、朝の地表面すぐ上の大気の温度と水分量の増加に起因している。このような超CC関係は、地上気温の比較的狭い範囲で現れる。本研究の結果は,極端な朝方の降水量の強化、および局地的な温暖化に対応して日周期対流極大時刻が夕刻から夜間・早朝にずれてきたという先行研究結果と一致している。対流が活発で降水量が多く河口に位置するジャカルタのような都市では、整備された降雨データベースが市街地洪水早期警報に極めて重要である。