2022 年 100 巻 6 号 p. 893-911
秋雨期の日本では、遠く離れた場所に位置している台風により、多大な降水がもたらされる場合がある。本研究では、1980年から2019年までの40年間の9月に発生した遠隔降水事例について調べた。台風が接近していたにも関わらず遠隔降水が発生しなかった事例、及び台風の影響が無かった大雨事例との比較を行うことで、遠隔降水事例の環境場の特徴を明らかにした。
統計解析の結果、台風が日本の南海上または南西海上に位置し、北上または転向経路である場合に遠隔降水が発生する傾向がわかった。遠隔降水事例のコンポジット解析からは、発生日の2日前から発生日にかけて亜熱帯高気圧が東に衰退していく様子が見られた。一方、遠隔降水が発生しなかった事例のコンポジット解析からは、日本の南海上または南西海上に台風が接近した時に、亜熱帯高気圧が西に張り出すという逆の様子が見られた。さらに、遠隔降水は200hPaジェットストリークの赤道側入り口で発生する。一方、発生しなかった事例では200hPaジェットストリークの位置が西へずれていた。また、台風の影響が無かった大雨事例よりも、遠隔降水事例は対流圏中層付近の北向き水蒸気フラックスが多いことがわかった。力学的解析の結果からは、遠隔降水域は800–600hPa平均で上昇流が励起される領域と925hPaの前線強化領域に対応することが示された。