2023 年 101 巻 5 号 p. 411-430
JRA-55再解析を用いて、客観的前線検出方法に基づいた中高緯度域の前線のデータセットを作成し、温帯から極域までの領域において、動気候学的気候区分を試みる。さらに、前線帯の経年変化と長期的な傾向を調査する。本研究の特徴は、前線帯のデータ作成方法にある。すなわち、従来から使われてきた相当温位を用いた温度情報に基づく客観的手法に500hPaのジオポテンシャル高度の条件を加え、また、緯度に依存するパラメータを取り入れる。前者は客観的手法で作成した前線と天気図上の前線との類似性を高め、後者は高緯度での前線の検出頻度を増加させ、動気候学的気候区分の検討を可能にした。前線帯が不明瞭であったり、前線帯の季節的な動きがはっきりしなかったりする地域があるため、気候帯を定めることができる地域は、中緯度の大山脈の東側とシベリア・カナダ北極前線帯が存在する地域に限定される。これまでの研究で報告されているエルニーニョ/南方振動、太平洋十年規模振動、北極振動に伴う各地の気候変動の特徴は、本研究で明らかになった前線帯の年々変動の特徴に基づいて概ね説明できる。加えて、北太平洋寒帯前線帯の東部が北半球の秋から冬にかけて北上すること、ヨーロッパ北極域前線帯でノルウェーの北部沿岸地域において冬から夏にかけて前線頻度が減少すること、シベリア・カナダ北極前線帯でボーフォート海周辺において夏に前線頻度が減少することなど、1979年以降において前線帯の一部で統計的に有意なトレンドが認められることが明らかとなった。