気象集誌. 第2輯
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101 巻, 5 号
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Article
  • 藤田 匡, 岡本 幸三, 瀬古 弘, 大塚 道子, 大和田 浩美, 林 昌宏
    2023 年 101 巻 5 号 p. 371-390
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/20
    [早期公開] 公開日: 2023/06/13
    ジャーナル オープンアクセス HTML

     豪雨事例を含む2017、2018、2020年梅雨期について、静止衛星搭載ハイパースペクトル赤外サウンダ(GeoHSS)の領域数値予報におけるインパクトを調査した。大気の疑似真値として欧州中期予報センター第5世代再解析(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts Reanalysis v5; ERA5)を用い、再解析に基づく観測システムシミュレーション実験(OSSE)を行った。GeoHSSのスペクトル特性を考慮した1次元変分法により、気温、及び、湿度の疑似観測を生成した。ラジオゾンデ観測による検証では、様々な高度、予報時間で改善がみられた。風の疑似観測は同化していないものの、同化サイクルや予測を通して風にもインパクトが及んだ。降水予測の検証も改善する傾向であり、予測のリードタイムをのばす効果が目立った。事例を調査したところ、梅雨前線に伴う低気圧や上層のトラフの予測の改善に伴い、主に長い予報時間で降水予測に改善がみられた。これらは、晴天域に広く分布する疑似観測による大きいスケールのインパクトが、データ同化サイクルや予測を通して降水域に伝播したものとみられる。一方、本実験における空間解像度が限られているため、小さいスケールの局地的な豪雨については、短い予報時間でも十分な予測が得られなかった。また、実験の結果、大気下層の情報の抽出が重要であること、上層の環境場へのインパクトは雲域での観測データ利用の影響を受けることが示唆された。

  • 髙村 奈央, 和田 章義, 柳瀬 亘, 宮本 佳明
    2023 年 101 巻 5 号 p. 391-409
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/15
    [早期公開] 公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    電子付録

     2019年、台風Faxai に伴う局地的な強風、台風Hagibisに伴う広範囲な集中豪雨により深刻な被害が生じた。いずれの熱帯低気圧(TC)も類似した経路をとり、転向後温帯低気圧化(ETR)したが、それらのストームサイズと構造は異なっていた:Faxaiは小さい軸対称なTCであったのに対し、Hagibisは大きい非対称なTCであった。本研究の目的は、TCが温帯低気圧化(ET)する過程において、ストームサイズの違いがTCの構造と総観場の変化にどのように影響しているのかを明らかにすることである。HagibisはFaxaiより多い降水量を広くもたらしている。この大量の降水量に深く関連する大きな非断熱加熱は、対流圏上層のHagibis下流で低渦位(PV)を形成し、リッジを強化する。それに対し、Faxaiの事例では、非断熱加熱が比較的小さく、Faxai下流における低PV域の形成は不明瞭である。事例解析に加えて、ベストトラックと気象庁55年長期再解析データセットによる低気圧位相空間及びコンポジット解析を使って2016年から2020年の北西太平洋のETRした大きい(LA)TCと小さい(SM)TC(それぞれLA-ETR TCとSM-ETR TC)を統計的に比較する。事例解析で見られたように、LA-ETR TCは、SM-ETR TCに比べ、多くの非断熱加熱と下流のリッジの強まりで特徴づけられる。LA-ETR TCは偏西風ジェットの南北振幅を強めながら北上し、非対称構造へと大きく変化する。それに対し、SM-ETR TC周辺では偏西風ジェットの南北振幅は強まらない。

  • 高橋 信人
    2023 年 101 巻 5 号 p. 411-430
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/20
    [早期公開] 公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    J-STAGE Data

     JRA-55再解析を用いて、客観的前線検出方法に基づいた中高緯度域の前線のデータセットを作成し、温帯から極域までの領域において、動気候学的気候区分を試みる。さらに、前線帯の経年変化と長期的な傾向を調査する。本研究の特徴は、前線帯のデータ作成方法にある。すなわち、従来から使われてきた相当温位を用いた温度情報に基づく客観的手法に500hPaのジオポテンシャル高度の条件を加え、また、緯度に依存するパラメータを取り入れる。前者は客観的手法で作成した前線と天気図上の前線との類似性を高め、後者は高緯度での前線の検出頻度を増加させ、動気候学的気候区分の検討を可能にした。前線帯が不明瞭であったり、前線帯の季節的な動きがはっきりしなかったりする地域があるため、気候帯を定めることができる地域は、中緯度の大山脈の東側とシベリア・カナダ北極前線帯が存在する地域に限定される。これまでの研究で報告されているエルニーニョ/南方振動、太平洋十年規模振動、北極振動に伴う各地の気候変動の特徴は、本研究で明らかになった前線帯の年々変動の特徴に基づいて概ね説明できる。加えて、北太平洋寒帯前線帯の東部が北半球の秋から冬にかけて北上すること、ヨーロッパ北極域前線帯でノルウェーの北部沿岸地域において冬から夏にかけて前線頻度が減少すること、シベリア・カナダ北極前線帯でボーフォート海周辺において夏に前線頻度が減少することなど、1979年以降において前線帯の一部で統計的に有意なトレンドが認められることが明らかとなった。

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