2021 年 99 巻 1 号 p. 113-137
インドネシア・スマトラ島上の日周期降水が東部インド洋上の総観規模擾乱へ与える影響について、衛星全球降水マップの高解像度降雨データと気象庁55年長期再解析データを用いて調査した。解析期間は2000~2014年の雨季(9月~4月)を対象とした。日周期振幅が大きい時、スマトラ島上で午後に発生する強い降水域は夜間にかけて沖合へ伝播し、平均して500km沖合まで到達する。その後、数日に渡り、東部インド洋上で総観規模擾乱が発達する。その際、マッデン・ジュリアン振動(MJO)に伴う対流がインド洋上に位置する時は、赤道をまたいで発達した双子擾乱がみられる一方で、それ以外の時は赤道の南側を中心に擾乱が発達する。この擾乱の発達位置や振る舞いの違いは、対流圏下層の平均水平風の強さと関連する。MJO対流がインド洋上に位置する時は、南半球の平均南東風に加え、北半球の平均北東風がMJOの対流中心へ吹き込み、双子擾乱の生成を促進する。これらの結果から、スマトラ島から伝播する日周期降水により生成された種擾乱は、発達する際に東部インド洋上の平均場に依存して異なる振る舞いをすることが示唆される。さらに、スマトラ島上での強い日周期降水を伴うMJO事例は、より長い期間持続し、海大陸上を通過する際も連続した対流活発域を伴う傾向がみられる。一方で、それ以外のMJO事例では、対流域が海大陸上で大幅に弱まり、西部太平洋上で再発達する傾向がある。これらの結果から、スマトラ島上での強い日周期降水が、MJO対流が海大陸上を東進する際の円滑な伝播を促進すると示唆される。