気象集誌. 第2輯
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9月の発達した低気圧によるシベリアから北極域への黒色炭素エアロゾル輸送に対するモデル分解能の影響
山下 陽介滝川 雅之五藤 大輔八代 尚佐藤 正樹金谷 有剛竹谷 文一宮川 拓真
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2021 年 99 巻 2 号 p. 287-308

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抄録

 黒色炭素(BC)等のエアロゾル大気中輸送は、太陽放射の吸収/散乱、降水や雪氷/海氷被覆に影響し、特に北極のような人間活動が活発ではない場所で変化をもたらす。本研究では、9月の発達した低気圧に伴うシベリアから北極域へのBC輸送シミュレーションの解像度依存性を、非静力学正20面体大気モデル(NICAM)-全球エアロゾル輸送モデル(SPRINTARS)の高分解能(約56 km)および低分解能(約220km)の計算により評価した。本研究で着目した低気圧は大きな水平スケール(約2000 km)を持ち、東アジアからシベリアを経て北極域に至る輸送経路上に、発達した中心気圧低下を配していた。近年で最も発達した低気圧イベントの事例解析では、日本の海洋地球研究船「みらい」で2016年9月26~27日に観測されたベーリング海の高濃度BC域が、2016年9月27~28日にかけ低気圧中心と寒冷前線の後面、および温暖前線の前面の上昇流域においてフィラメント状の構造で北極域へ移動した。2015~2018年の9月に発達した低気圧イベントの合成図解析では、高濃度BC域は低気圧中心の東側に位置し、これは低気圧中心と北側/東側域の上昇流と関連していることが示された。上昇流最大となる領域は水平スケールが小さいため、水平解像度約220kmの実験では十分に再現されなかった。本研究では、発達した低気圧により9月における北極域へのBC輸送が増大することを確認した。輸送モデルの結果は、発達した低気圧による北極域への物質輸送が、高分解能(約56 km)の計算では低分解能(約220km)の計算よりも増大することを示した。

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© The Author(s) 2021. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
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