2021 年 99 巻 2 号 p. 357-377
停滞性の線状降水帯とはメソ対流系の1つのタイプで、日本の暖候期における典型的な豪雨をもたらす気象システムである。西日本の近畿地方はこの線状降水帯が発生しやすい地域の一つとして知られているが、その形成プロセスの複雑さのため、この領域のそれらの形成メカニズムは十分にあきらかにされていない。本研究では、観測データと高解像度数値実験を用いて、2015年9月1日に発生した線状降水帯を調べた。また、地形効果や初期値時間に関する感度実験も行った。
観測データから、線状降水帯の期間、下層は非常に湿潤であることが示された。線状降水帯の形成期間には、近畿地方の中層は南西風が卓越していた。また、線状降水帯の形成には寒冷前線やメソスケール低気圧が伴っていなかった。これらは本事例の線状降水帯の形成には必要条件ではないことが示された。
数値シミュレーションを用いた再現実験の結果、紀伊水道から流入する温暖湿潤な南南西風と西風の下層収束によって線状降水帯が形成されていることが分かった。淡路島の北で新しい対流セルが発生し、そのセルが中層の南西風によって北東方向に移動した。このセル形成プロセスが繰り返されることで線状降水帯が形成された。線状降水帯の形成地域の地形効果についての感度実験の結果、本事例の線状降水帯の形成には地形が重要でないことが示された。地形は線状降水帯の位置を変更し得る。