2021 年 99 巻 2 号 p. 339-356
2016年8月下旬に日本の南海上の対流圏下層で発達した、大規模な低気圧を伴うモンスーントラフの予測可能性を調べた。このモンスーントラフはアジアジェットの蛇行、及びそれに伴う日本の東海上でのロスビー波の砕波と関連する上層での高渦位大気の南西方向への侵入によって強化されたことが分かった。気象庁現業1か月アンサンブル予報は、予測初期1週間においてロスビー波の砕波の強度を過小に予測し、モンスーントラフの強化を予測できなかった。アンサンブル特異ベクトル法に基づく簡易予報感度解析の結果、ベーリング海やアジアジェット入口付近にあった初期摂動は、効率的に成長しながら日本の南海上に向かって伝播し、モンスーントラフを強化する摂動の最大化に寄与しうることが分かった。日本の南海上に向かって伝播する摂動の時間発展は、予測期間におけるアンサンブルスプレッドの時間発展と対応していた。簡易予報感度解析より得られた初期摂動を与えた再予報実験を行った結果、摂動を与えた実験では、摂動を与えなかった実験と比べて日本の南海上でのモンスーントラフの強化がより明瞭となり、簡易予報感度解析の結果と整合していた。これらの結果は、ロスビー波の砕波及びアジアジェット入口付近における初期摂動が、2016年8月後半に強化したモンスーントラフの予測可能性に大きく寄与したことを示している。