気象集誌. 第2輯
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Article : Special Edition on Extreme Rainfall Events in 2017 and 2018
平成30年7月豪雨における梅雨前線による大雨での雨滴蒸発冷却の影響
小原 涼太岩崎 俊樹山崎 剛
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電子付録

2021 年 99 巻 5 号 p. 1351-1369

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抄録

 平成30年7月豪雨では、7月5日から3日以上にわたって梅雨前線が西日本に停滞し、西日本から東海地方にかけての広範囲で記録的な大雨となった。本研究では、前線付近の降水のメカニズムおよび、雨滴蒸発による冷却が前線付近の降水の形成・維持に及ぼす影響について調べた。最初に、全球再解析(JRA-55)を用い、豪雨を発生させた梅雨前線の力学的・熱力学的構造について調べた。南方から停滞前線に向かって大量の水蒸気が輸送されており、とりわけ前線面として同定された299Kの等温位面付近で断熱的な上昇流が最大であった。断熱的に上昇した暖気は高度500m付近で飽和に達し、強い非断熱加熱による上昇流も加わり、活発な降水システムが形成された。降水粒子は299K面の南端付近で蒸発冷却を起こし、前線面の位置の維持に大きな役割を果たしていたことが示唆された。そこで、非静力学数値モデルJMA-NHMを用いた降水粒子の蒸発に関する感度実験を水平解像度3 kmで行った。数値実験では300K等温位面が前線面として同定され、同時におこなった地形の平坦化の有無に関する感度実験の結果、中国地方から近畿地方中部に伸びる強い降水帯は地形ではなく主に前線面に沿った上昇流で形成されていたことが示された。雨滴蒸発をオフにした場合には、蒸発による前線面下の寒気生成が消失することで寒気の張り出しが弱まり、前線面が北に後退することで活発な降水帯が100km以上北に変位することが示された。

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© The Author(s) 2021. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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