気象集誌. 第2輯
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小地形の影響を受けた接地層における風速垂直分布
吉野 正敏
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1958 年 36 巻 5 号 p. 174-186

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抄録
広い平坦な場所における接地層の風の垂直分布は,理論的にも,実験的にも,これまで多くの成果がえられている。しかし,それが微細な地形の影響によって,どうなるかはほとんど研究さてない。今回報告するのは接地層の5分間平均風速の垂直分布を,長野県菅平高原の平坦地とそれを切って流れる小さい谷の中で,1957年7月の日中に観測した結果である。理工研式小型ロビンソン風速計を40,110,190,290,490cmの5高度に設置したもの2組を使い,1組は平坦な場所の地点に位置し,他の1組は谷の断面に沿って谷の中の地点を次々と移動させた。明らかになった事実は,以下の通りである。
(1)谷壁斜面の上縁から数mへだたっている平原上の地点においては,谷を横切つてきた風の場合,地上490cmの平均風速が2-3m/sを境として,風速垂直分布の状態が違う。
(2)平原上の地点における風速垂直分布を対数法則で表現すると,z0もdも風速に応じて変化する。地上490cmの風速が2-5m/sの範囲では,dは負の関係,z0は正の関係が風速との間にある。しかし,これまでに求められた他の研究結果と比較して,一般的傾向と結論することはできない。
(3)谷壁斜面上部の地点においては,卓越風に面する場合,卓越風が平原上490cmにおいて3m/s以上で強ければ,谷壁斜面上部の方が平原上より弱い。逆に,3m/s以下のときは,谷壁斜面上部の方が強くなる。
(4)谷壁斜面上部が卓越風の蔭になる場合,風速垂直分布は卓越風に面する場合とひじょうに違い,平原上よりつねに弱い。斜面の傾斜が急になれば,特にこれが明らかで,谷の中に渦が発生して特異な状態を示す。
(5)斜面中部から下部になると,簡単な垂直分布型は示さず,地上2-3m付近に極大と極小ができる。これは谷底の地点においては一層明らかで,渦の下側の部分の反対気流が,地面にごく接近した部分にできるためである。
(6)卓越風の風速が7m/sまでの範囲では,谷底の地上2-3m/sに極大と極小がでるという風速垂直分布の型および風速の絶対値には,大きな差は認められなかった。
(7)平原上の観測結果は,これまでに求められている日中の風速垂直分布型と一致している。小地形の影響のある地点の風速垂直分布型は,卓越風の蔭になる場合と,卓越風に面する場合とに区分される。また,この他,谷底とその付近における渦の発生する場所の垂直分布型がある。
(8)谷の中の風速と,平原上の卓越風の風速との比は,卓越風の風速によって変化する。比較的弱い卓越風の風速範囲における,森式風向風速計による観測結果では,日中両者は逆の関係にあり,夜間は正の関係にある。
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© 社団法人 日本気象学会
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