気象集誌. 第2輯
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野尻湖の蒸発
山本 義一近藤 純正
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1968 年 46 巻 3 号 p. 166-177

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抄録

筆者らは以前に,水深の深い十和田湖(最大水深334m,平均水深80m)からの蒸発量をもとめたが,その季節変化は夏にすくなく,冬に多いという結果であった.それは水は熱容量が大さく,したがって春•夏期は水温が気温より低く,湖上の大気は安定な成層をしていて,蒸発が抑制されるのに反し,秋•冬期は水温が気温より高く,大気は不安定となって,蒸発が促進されるためであると考えた。その他の湖においても,十和田湖の場合と類似な現象がある程度期待されるが,十和田湖の場合は水深が非常に深いために,湖の中に貯えられる熱量が大きく,この影響が普通より強く出ているように思われた。それで,これを明らかにしたいという考えから,こんどは比較的水深の浅い野尻湖(最大水深41m,平均水深21m)をえらんで蒸発量を2ケ年に亘ってもとめた。
蒸発量は,湖面上の風速,気温,湿度および表面水温を観測してもとめる,いわゆる乱流拡散理論にもとずく空気力学的方法と,湖面に出入りする熱量を観測して熱収支の式の残差を蒸発に要した潜熱としてもとめる,いわゆる熱収支の方法の2つを用いてもとめた.この2つの方法による結果を比較すると,各月々の値には,いくらかの違いはあるが,全体として見た場合,季節変化のしかたは同じものが得られた。全湖面の平均蒸発量は年間値で約620mmで,十和田湖の4ケ年平均値の約760mmよりはいくぶん少ない。
中程度の水深をもつ野尻湖に於ても湖水の中に貯えられる熱量が相当あるため,蒸発量の多いのは,8•9•10月で,少ないのは,2•3•4月である。十和田湖と野尻湖での観測結果から水深のちがいが蒸発の季節変化におよぼす影響が明らかになったが,これらよりもっと浅い,数m以内の水深の湖では,蒸発量は夏期に多く,冬期にすくないのであろうと推定される。

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