気象集誌. 第2輯
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熱放射によるエネルギー損失を考慮した大気の運動の一解析
笹森 享
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1972 年 50 巻 6 号 p. 505-518

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抄録

重力の影響により成層した大気中で起る運動にたいして熱放射によるエネルギー損失がどの程度重要か,簡単なモデルを用いて解析した.熱放射の伝播は大気中の水蒸気,炭酸ガスの振動運動および雲の吸収によるものとする.内部エネルギーと位置エネルギーから運動エネルギーが変換される過程は局所的なものとし,大気の運動方程式系を線形化したうえで,その熱力学の式に放射損失を考慮する.得られた方程式系の基本的な解は時間および空間座標の調和関数で与えられ,その時間特性指数を断熱大気のそれと比べることによって次の結論を得た.もし全地球的な規模の運動が取扱われ,その運動エネルギー産出を正しく評価するには,放射損失を考慮する必要があろう.大気が系外からの加熱により運動する場合,もし加熱の時間的変化が非常に早いとき,または非常に緩やかなときは,ともに放射損失は無視できよう.最後の章で,大気中に雲が発生する場合を想定して潜熱放出による加熱と雲の放射効果とを比較解析した.雲の発生初期の段階では,放射加熱が凝結加熱と比較しうる効果をもつことが示されるが,雲が厚く成長するにしたがって,その内部は熱放射にたいして黒体化し,放射は雲の加熱状態の変化にほとんど寄与しなくなると推定される

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