大気中の湿潤対流の性質をよりよく理解するための基礎を得ることを目的として,簡単化したモデルを用いて数値実験を行なった.モデルでは偽断熱過程が仮定され,従って,水滴の蒸発やひきずり力及び雲の微物理過程は含まれていない.また,上昇域では運動は常に湿潤断熱的であると仮定している.今回の研究は,Yamasaki(1972)の摂動論の発展として行なったもので,摂動論から得られた結果が有限振幅の効果によってどのように変わるかを調べることを目的としている.特に,対流の上昇域の水平スケールや対流セル間の相互作用に対して有限振幅がどのような効果をもっているかを調べた.この論文では,一般流や大規模場の収束等がない場合の対流の問題に限定している.
数値実験の結果によれば,上昇域の水平スケールは,摂動論から期待されるものより,特に対流の下部で,大きくなる.しかし,その特徴的なスケール(上昇流が最も強い高度での水平スケール)は有限振幅の効果によって大きくは変わらないことがむしろ強調される.このことは,有限振幅対流における上昇域の特徴的なサイズは摂動論からおおよそ推定できることを意味する.対流の初期における上昇域のサイズが摂動論から期待されるサイズに比べて小さいか大きいときには,摂動論からのサイズに近づいていく.従って,初期のサイズが非常に大きくない限り,対流の最盛期におけるサイズは初期に仮定したサイズに強くは依存しない.
上昇域のサイズに関する結果は,また,Asai(1967)によって得られた結果と比較して論じた.