抄録
Hayashi(1971)によって開発されたクロス•スペクトラム解析の手法を,冬の成層圏における非定常プラネタリー波の解析に適用した。1965/66と1966/67の二つの冬における北半球成層圏30mbでの気圧データから,東西波数1の30日より短い周期の波は西進傾向を示し,波数2•3の波は東進傾向を示すことがわかった。
顕著な移動性波動の鉛直構造を調べると,波数2の東進部分は,ほぼエネルギーを保存して上方に伝播(位相角の西への傾き)している。一方,波数1の西進部分の上方伝播性は必ずしもはっきりしない。
後半では,非定常プラネタリー波の成層圏への伝播特性を考察した。冬の平均的西風の子午面内でのもっともらしい分布を仮定し,また,下端境界条件として対流圏上部(10km)での高度についての停滞振動を仮定した。それらの周期として6•12•24•48日をとった。計算結果は,成層圏への波動伝播に際して,振動の周期による選択性が現われることを示す。30kmで見ると,波数2はすべての周期で東進波が卓越するが,中でも10~25日位の周期が最もよく伝播する。一方,波数1は周期によって30kmでの卓越波が異なり,12日周期では西進波,24日周期では東進波となる。計算された卓越波の鉛直構造は波数1の西進波の一部を除いて,観測とかなりよく一致している。
すなわち,比較的静穏な冬の成層圏に出現する移動性プラネタリー波はいろいろな周期,伝播方向をもった対流圏におけるプラネタリースケールの波動が,その伝播特性に応じて"選択的"に伝播した結果として理解し得る部分が多いといえる。特に,東西波数2に関してそうである。波数1の移動性波は必ずしもそういえない面もあり,今後のより詳しい研究が必要と思われる。