抄録
ジェノヴァ湾での低気圧発生過程(所謂ジェノヴァ低気圧)を四例について分解能の高い限られた領域の予報モデルを使ってシミュレートした。境界条件は観測値を採り,四例のそれぞれについてモデルに山脈を入れた場合と,山脈なしの場合の両方を48時間積分した。
この中の二例は山脈の有無に関係なく,いずれのシミュレーションでも低気圧の発生が見られたが,山脈は明瞭に場を変形する効果を示した。すなわち,アルプス山地の北西や南西に地表の気圧の高圧部を作る点と,アルプスの北の中部ヨーロッパで,対流圏中層において気圧の尾根ができる点である。
他の二例は山脈なしのモデルでは低気圧発生が再現できなかった。特にこのうちの一例では,地表の低気圧形成が山脈を入れたモデルで極めて実際に近い形で再現された。中層ではシミュレートした等圧面高度が実際より低く出たが,ジェノヴァ湾の北の切離低気圧の形成過程そのものの程度は不十分であった。これは,山体の北方で山によるブロッキング作用がモデルの中で弱かったためか,あるいは切離過程はもっと大きなスケールの大気そのものに属する性質のものであったのか,のいずれかのためと考えられる。