気象集誌. 第2輯
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熱帯の雲クラスターと大規模上昇流
Robert A, Houze, Jr.
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1982 年 60 巻 1 号 p. 396-410

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抄録

雲クラスターを含む熱帯大規模場の熱収支解析を行った。クラスターの大きさと降水量は観測から得られた平均的な値を用いた。
モデル化されたクラスターは発達の初期には,孤立した背の高い,降水を伴なう対流セルから成立っている。降水率を仮定した簡単な雲モデルを用いて,対流雲の凝結熱,蒸発率,顕熱輸送量を求めた。対流雲が大規模場の熱収支に与える影響では凝結熱放出が主要な役割を果し,対流雲は全体として対流圏全層を暖めている。
発達の最盛期では,クラスターは対流雲と横に広く拡がる雲のおおいを含んでいる。この広く雲でおおわれた領域では力学的にも熱力学的にも活発で,大規模場の熱収支に大きな役割を果している。またこの領域では雨が降っており,上層のメソスケールの上昇域では凝結が,下層の下降域では蒸発がおこっており,その中間で氷解がおこっている。メソスケールの上昇域,下降域での凝結熱,蒸発熱,顕熱輸送量は,降水率を仮定した簡単なモデルで決定される。また氷解熱は実際の雲クラスターでのレーダ観測による反射率から見積られる。雲の広くおおっている領域では全体として中層から上層では熱源,下層では冷源の役割を果している。
この雲でおおわれた領域はまた放射エネルギーにとっても重要である。この領域では中層から上層にかけて放射によって温められており,この効果は他の凝結熱や蒸発熱と同程度に重要な役割を果している。雲クラスターの発達段階によって,大規模熱収支に及ぼす影響は変化している。水平に雲のおおう領域が拡大するにつれ,上層ではメソ上昇域の凝結熱と放射効果によってより熱せられ,下層のメソ下降域では蒸発によって冷やされる。従ってクラスターが発達するにつれ上層では加熱率が増大し,下層では逆に減少する。これらの結果は観測から得られた大規模上昇速度の分布とよく対応している。以上のことから,発達した雲クラスターでは,雲で広くおおわれた領域におけるメソスケールの上昇,下降運動,および放射加熱の効果が大きく,熱帯の大規模上昇流に重要な影響を与えるということが結論される。

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© 社団法人 日本気象学会
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