抄録
地球大気の熱平衡温度に対する種々の大気状態の絹雲の厚さと高度の気候学的影響を研究するために数値実験を行なった。ここで用いた対流調節法は真鍋らによって導入された方法に従ったが,半透明で黒体ではない雲の放射伝達の扱い方に新しい試みをとり入れて,放射対流モデルを作った。このモデルは,絹雲の日射と赤外放射に対する特性が温度分布の決定に関して充分注意深く取扱えるように作られている。その結果,射出率が0.45で日射の反射率が0.08の0.1km の厚さを持つ薄い絹雲が存在すると,大気は絹雲の高度にかかわらず20°Kも加熱されることがわかった。しかし,厚い雲ではその高度が重要になる。低く厚い氷の雲の存在は大気をかなり冷やす効果があり,これは他の研究結果とも一致する。熱帯の大気で,水蒸気とオゾン分布の気候値と雲の統計を用いて,総合的に熱平衡温度分布を計算した。この結果を熱帯の温度分布の気候値と比較すると,対流圏ではよく一致した(1°K以内)が,成層圏では約10°Kの差異となった。熱帯の例では,晴天部分を減らして絹雲量を10%増加させると,地表温度は約0.2°Kだけ上昇することが明らかになった。