気象集誌. 第2輯
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雲核が雲粒粒径分布に与える影響に関する数値実験
第一部 凝結成長過程における雲粒について
武田 喬男久芳 奈遠美
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1982 年 60 巻 4 号 p. 978-993

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抄録

雲核の粒径分布•物質構成が雲底近くの雲粒粒径分布に与える影響を,断熱上昇する空気塊を用いた数値モデルにより調べた。とくに,雲粒粒径分布の幅を広くする因子について論じた。
モデル実験の結果,達成される過飽和度がより低い空気塊において,より幅の広い雲粒粒径分布(平均半径に関する標準偏差がより大きい分布)が作られることがわかった。例えば雲核の数密度がより高い空気塊において,より幅の広い雲粒粒径分布ができる。また,人間活動によるエイトケンサイズの雲核の添加•空気塊の上昇速度がより遅いことなども雲粒粒径分布の幅をより広くする因子となる。小さい雲核上に凝結してできた雲粒は,その水溶液モル濃度が低いため凝結成長速度が過飽和度に強く依存する。一方,大きい雲核上にできた雲粒の成長速度は,その水溶液モル濃度が高いため溶質の効果により,過飽和度の変化に大きく左右されない。このため,過飽和度のより低い空気塊内では,大きい雲核上の雲粒の成長速度はあまり遅くならないのに対し小さい雲核上の雲粒の成長速度が遅くなり,より幅の広い雲粒粒径分布ができる。雲核が水に溶けない物質を中に含む混合核となっている場合については次のことがわかった。もし混合核の粒径分布が水溶性物質のみでできた雲核の粒径分布と同じであれば,混合核上に形成された雲粒の粒径分布は後者の上に形成されたものよりも幅の狭いものとなる。しかし,雲核の水溶性物質の質量分布が混合核と非混合核とで同じであれば,混合核上に形成された雲粒と非混合核上に形成された雲粒とでは,その粒径分布はほとんど異ならない。

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© 社団法人 日本気象学会
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