気象集誌. 第2輯
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チベット高原における加熱量の季節変化とその夏季アジアモンスーンに及ぼす影響
柳井 迪雄李 承峰宋 正山
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1992 年 70 巻 1B 号 p. 319-351

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抄録

客観解析したFGGE II-b高層観測データを用いて、1978年12月から1979年8月までの9ヶ月間のチベット高原及びその周辺領域の大規模循環場と熱・水蒸気収支の解析を行った。客観解析には、FGGEデータに加えて1979年5月-8月に中国が行った「チベット高原特別気象観測」データも用いた。
夏季アジアモンスーンの始まりにつながる冬から夏にかけての顕著な季節変化を同定するために、大規模循環、温度、外向き長波放射(OLR)および鉛直循環の時間的発展を記述した。チベット高原は、熱的に駆動された大規模垂直循環を維持しているが、この循環は地球規模のモンスーン循環とはもともとは別なものである。上昇流は冬には西部高原だけに限られているが、季節の進行とともに高原全域に広がる。アジアモンスーンの始まりは高原が誘導する循環と、北上する主要な降雨帯に伴う循環との相互作用によってもたらされる。
冬の期間、高原は冷源となっているが、周囲はさらに強い冷源域となっている。春には高原は熱源となるが、周辺域は引続き冷源である。高原上での主要な熱源は地表からの顕熱輸送である。しかし、その他に凝結熱の貢献も、西部高原では年間を通して、更にもっと重要なことには東部高原ではとりわけ夏に観測されている。持ち上げられた高原表面の顕熱加熱と周辺域の放射冷却によって水平温度傾度が維持され、それが熱的直接循環を生じている。
夏季アジアモンスーンへの2つの移行期間-5月の東南アジアのモンスーンの始まりと6月のインドモンスーンの始まり-の上部対流圏の昇温過程を詳しく調べた。その結果、最初のオンセット時の東部高原での気温上昇は、主に、非断熱加熱の結果であるが、次のオンセット時直前のイラン-アフガニスタン-西部高原の気温上昇は、強い下降流によってもたらされていることがわかった。
高原上の境界層や垂直循環には大きな日変化が存在する。地表からの加熱によって、高原上では夕方(1200 UTC)に温位がほぼ一様な深い混合層がみられる。このことは熱の垂直輸送に果たす熱対流の役割の重要性を示唆している。しかし、水蒸気は垂直方向にあまり混合しておらず、また、境界層には大きな水平温度傾度がある。晩春から夏にかけて、境界層は乾燥対流に対してより安定となる。一方、晩春以降の相当温位の垂直分布は、下層の水蒸気量の増加に伴って、湿潤対流に対して条件付き不安定な成層を示す。

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© 社団法人 日本気象学会
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