気象集誌. 第2輯
Online ISSN : 2186-9057
Print ISSN : 0026-1165
ISSN-L : 0026-1165
やまじ風の数値的研究(2)
鞍部を伴う山脈を越える3次元の流れの非線形領域の振舞
斉藤 和雄
著者情報
ジャーナル フリー

1993 年 71 巻 2 号 p. 247-272

詳細
抄録

既報(Saito and Ikawa, 1991a)に引き続く研究として、「やまじ風」に対する四国山地の地形の3次元的な効果が、山脈を越える流れに対する鞍部の影響に焦点を当てて数値的に調べられる。やまじ風の地理的な特徴が、鞍部を伴う山脈を越える3次元の流れの非線形領域の振舞によって説明される。
周期的な鞍部を伴う山脈を越える3次元の流れのレジームが、一様大気に対する線形解析解と非静水圧モデルを用いた数値実験によって調べられる。山の形状を記述するため、スコーラー数で無次元化した山の高さと、山の高さに対する鞍部の振幅の比の2つのパラメターが用いられる。数値解では、流れのレジームは線形論の予報する値に比べて20%程小さな山の高さから変化した。山脈が鞍部を伴う場合、山蔭後面では2次元モデルによる場合に比べて、より小さな山の高さから砕波が生じ、ハイドロリックジャンプの停滞と後面の逆風の発生が見られた。一方、鞍部の風下側では強風域は容易に風下側に拡大し、ジャンプ自体も不明瞭である場合が多い。ジャンプの振舞は、鞍部の存在による山脈の高さの違いに極めて敏感であるが、山脈風上側のブロッキングは、鞍部の有無に比較的鈍感である。鞍部の振幅の変化に対する内部ジャンプの振舞の応答は、浅水流に生ずるハイドロリックジャンプの流路幅の変化への応答(Saito,1992)と類似が見られる。
1987年4月21日の顕著なやまじ風を例に、観測された大気の鉛直プロファイルと中国山地の一部を含む四国の実地形を用いた数値実験が行われ、環境風が増大する場でのハイドロリックジャンプの振舞がシミュレートされる。2次元数値実験では早過ぎたやまじ風のオンセットのタイミングが、3次元数値実験では改善される事が示される。やまじ風の地理的な特徴が、四国山地山蔭でのジャンプの停滞とその後面の逆風、及び三島付近に抜ける鞍部風下側での強風域の拡がりによって説明される。地表摩擦の効果をシミュレーションに含める事によって、より現実的な地表風系が得られる。これらの3次元シミュレーションの結果を基に、やまじ風の概念モデルの改良版が示される。

著者関連情報
© 社団法人 日本気象学会
前の記事 次の記事
feedback
Top