気象集誌. 第2輯
Online ISSN : 2186-9057
Print ISSN : 0026-1165
ISSN-L : 0026-1165
日本海上の対流性降雪雲の数値実験
混合層の発達と対流性降雪雲形成の2次元数値実験
村上 正隆Terry L. ClarkWilliam D. Hall
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 72 巻 1 号 p. 43-62

詳細
抄録
新しい雲の微物理パラメタリゼーションを組み込んだ2次元3重ネステッド雲モデルを用いて、二つの事例について、日本海上での混合層の発達と対流性降雪雲の形成過程の数値実験を行った。一つは、集中観測期間中の1989年2月2-4日に、並の寒気吹き出しに伴って出現した雪雲である。この例は、雲の微物理構造について観測結果との詳細な比較がなされた。もう一つは、1990年1月24-26日の強い寒気吹き出しにともなって出現した雪雲である。この二例の比較を通して寒気吹き出しの強さが混合層の発達と雪雲形成に及ぼす影響を調べた。
モデルは、暖かい海面からの熱と水蒸気の補給(総熱フラックスは、1989年の例では439W/m2、1990年の例では895W/m2)と、それに続く対流輸送による混合層の発達をよく再現した。雲が形成されるまでの吹走距離、雲頂・雲底高度、混合層内での気温の増加等については、モデルと観測との良い一致が見られた。
雲の力学及び微物理学的見地からは、上昇流、雲水量、雪水量などの観測値がよく再現された。また、雪雲中での霧雨(drizzle)の生成や、雲水の高濃度域と氷晶の高濃度域の一致という観測事実もよく再現された。モデルと観測結果の不一致の主なものは氷晶濃度で、モデルは観測値を約6倍過小評価した。
一般的に、雲は大陸東岸から50-150km(寒気吹き出しの強さによる)風下で形成され、吹走距離とともに徐々に雲頂高度が高くなり、対流活動も活発になる。日本付近では、海岸から約30km風上側で雪雲の活動が強まり、その後、陸面からの熱と水蒸気の補給を断たれて徐々に衰弱する。これらの雲の中では、最初、主に過冷却雲粒の凍結によって氷晶が生成し、昇華凝結及び雲粒捕捉により成長する。代表的な降水粒子は、海上・海岸域ではアラレで、山岳域に進むにつれて雪へと変化する。山岳斜面上では、衰退しつつある上層の雪雲と地形による上昇流で形成された下層雲の間で顕著なSEEDER-FEEDERメカニズムが働いている。海上でも、ライフステージの異なる隣接する雪雲間で同様のメカニズムが働くが、山岳斜面上ほど顕著ではない。
寒気吹き出しが強まる(低温になる)ことにより、雪雲の対流活動は活発になり混合層も厚くなる。昇華凝結核の活性化により、高濃度の氷晶が生成され、これら氷晶間での過当競争により雲粒捕捉成長が抑えられ、アラレの雪に対する比率が減少することが示された。
著者関連情報
© 社団法人 日本気象学会
前の記事 次の記事
feedback
Top