1998 年 76 巻 4 号 p. 663-671
全球格子点月別降水量データと、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の4次元同化データより大気水収支法を使って月別の蒸発散量をアジア地域で推定した。この値と気象衛星NOAAの観測による全球植生指数との季節変化を比べた。対象期間は1987年と1988年で、蒸発散量(ET)、植生指数(NDVI)共に月別値で解析を行なった。その結果、両者の季節変化間には強い関係が発見された。東西シベリアにおいて推定されたETは冬季小さな値を示しているのに対し、5月から突然増加を開始し、7月に最大となる。NDVIはETとほぼ同様の季節変化を示すことから、このETの増加は夏季における植生の蒸散活動の活発化に一つの原因を求めることができよう。また、インドとパキスタンにまたがるパンジャブ地方でNDVIに1年に2回のピークを見る。これは、この地方で二毛作が行なわれているためであるが、推定されたETにも年に2回のピークが認められ、二毛作の影響が現れていることをうかがわせる。本研究で得られた結果は、大陸スケールでの植生と、全球格子点気象データより推定された蒸発散量との関係を解析することの有効性を示すだろう。