2018 年 24 巻 1 号 p. 29-35
本論では、筆者の内観療法との出会いから現在に至るまでの内観療法とのかかわりを、研究者として、教育者として、実践者の3つに分けて振り返った。それを元に、内観療法が心理療法にもたらすものについて、「東洋的全人的モデル、全体性への回帰」「「問題」は本当に問題なのか」「パラドクス」を提示し、パラドクスを孕んだ療法としての内観療法の特異性について論じた。また、心理療法における内観療法の意義を考察し、臨床心理学の中で看過されてきた東洋的なアプローチの意義を再考するための希少な心理療法の一つであること、内観療法が心理療法を相対化する軸となりうること、多様な援助者間の協働の在り方について考えるきっかけとなりうることを指摘した。最後に、筆者にとっての内観療法は、自身の無力さに直面化させられる貴重な存在であり、対極にあるものを常に横に置き、相対化することを忘れない人生の装置としての意義があると考えられた。