看護経済・政策研究学会誌
Online ISSN : 2435-0990
研究ノート
独立した中規模訪問看護ステーション管理者から捉えた機能強化型への展望
野上 裕子小路 ますみ
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2020 年 3 巻 1 号 p. 1-8

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【要旨】

目的: 中規模訪問看護ステーション管理者の機能強化型への移行を阻む意識を明らかにし,どのように対応したら機能強化型に導けるかを提言する。

方法: 管理者2 名に,半構成的面接で現状の運営状況の困難や問題についてインタビューを行い,その逐語録から定性的データを抽出し,仮説創設法(KJ 法)を用いて現象学的探求を行った。

結果: 抽象化7 段階で捉えた表札は「駆使点・難点」であった。機能強化を阻むものは,個人の力量の範囲(最低限のベース)の精一杯の事業運営にあった。

結論: 中規模ステーションの機能強化のためには,管理者が「駆使点・難点」を認識し「最低限のベース維持」からの脱却が必要である。そのためには,同事業所間の共助,行政との公助の充実が不可欠である。まずは,地域の協議会の機能強化を図り,行政に意見具申できる地域住民の権利擁護者たる団体として活動していく必要がある。

【Abstract】

Purpose : The purpose of this study was to identify how managers of middle-sized visiting nursing stations,who had business management rights, intended to administer the stations by examining their search for methods toward enhancing nursing station functions.

Methods : Semi-structured interviews were performed with two managers regarding difficulties and problems of present management situations. Qualitative data were extracted from the verbatim scripts and a phenomenological study was conducted employing the KJ method with hypothesis generation.

Results : The labels that were extracted in the seventh step abstraction were “utilization and difficulty.” The obstacles to enhanced function were “minimum base” conditions of station management which relied on individual capabilities.

Conclusions : Enhanced function nursing requires overcoming “minimum base” management, and it is necessary for managers to recognize it’s “utilization and difficulty” and break away from “minimum base maintenance”. For that purpose, it is essential to enhance mutual assistance between establishments, as well as those institutions’ cooperation with government public assistance activities. To begin with, stations should enhance functions with councils in the community and act as institutions to support rights of local residents by submitting opinions to authorities.

I. はじめに

わが国の医療制度は,在院日数の短縮化が図られ在宅療養へ移行している。医療依存度の高い療養者が増加しており,地域で療養生活の支援を行う在宅支援診療所や訪問看護ステーションの責務が大きくなっている1)。このような状況下,訪問看護ステーション(以下,ステーションとする)は,療養者のニーズに対応していくために,柔軟な対応や安定的なサービス提供ができる体制が必要とされ,厚生労働省は平成26年度診療報酬改定で在宅医療を推進するため機能の高いステーションを評価する「機能強化型訪問看護管理療養費」を創設した。届け出を行うことで通常の訪問看護管理療養費よりも高い報酬を得られる。機能強化型訪問看護管理療養費を算定するためには,いくつかの要件があり,例えば常勤看護職員5人以上で24時間対応できなければならないことや,ターミナルケア加算の年間算定数が15件以上等であるが,実際の届出数は年々増加しているものの平成29年度はステーション数全体の4%程度であった2)。小野ら3)の調査によると,要件が揃えば機能強化型訪問看護ステーション(以下,機能強化型とする)の申請を行いたいと希望している割合は65%と半数以上を占めている。逆に届け出ができない理由は,1事業所あたりの平均常勤看護職員は4.9人であり2),要件に満たない人数であることがわかる。つまり,国が訪問看護に期待していることは,「24時間体制」,「重症化への対応」,「柔軟な訪問」といった多様なニーズを持つ療養者に対応できる体制である。一方,規模が小さいままではこうしたニーズに応えられず4),機能強化型への進展には,常勤看護職員数の確保が必要である。しかし,常勤看護職員数の確保ができれば,多様なニーズに対応できる機能強化型へ移行できるのであろうか。そこで今回,機能強化型へ移行していない中規模訪問看護ステーション(以下,中規模ステーションとする)を対象に,移行を阻む課題を探求することとした。

II. 目的

本研究の目的は,機能強化型の申請を行っていない中規模ステーション管理者(以下,管理者とする)に焦点を当て,管理者の機能強化型への移行を阻む意識を明らかにし,どのように対応すれば機能強化型に導けるのかを提言することにある。なお,本研究による中規模ステーションとは,中央社会保険医療協議会総会資料の訪問看護ステーション看護職員規模別の推移1)から,「看護職員数5人以上10人未満のステーション」と定義する。

III. 研究方法

対象は機縁法による管理者2名とした。半構成的面接で管理者の志(思い)や運営状況の困難や問題についてインタビューを行った。その内容は,ICレコーダーで録音し逐語録にした。逐語録については,対象者に確認し合意を得た。次に,この逐語録をフィールドにして,仮説創設法(KJ法)5)で管理者の志向を探求した。まず,数回の反復作業で文脈単位の「志(思い)」あるデータ(現象)を抽出した。そのデータを意味内容の類似性(KJ法の核融合法)で分類(KJ法のグループ編成)し,それぞれの意味内容を記述(抽象化1段階表札)した。さらに,その記述内容を意味内容の類似性で分類し,それぞれの意味する内容を記述した(抽象化2段階表札)。同様の作業をこれ以上分類できない段階まで繰り返し,最終段階の表札を空間配置し,表札間の関連を見ながら図解化を行った。この図解から,さらに抽象度を高め,核なる「志」を導き出した。また,図解の叙述化を図り,項目間の関連を確認した5)。なお,探求にはKJ法指導者による教授を受けた。

IV. 倫理的配慮

本研究は聖マリア学院大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:H27-017)。対象者に書面で,研究目的,参加は自由意志であること,研究協力の有無による不利益がないこと,個人情報保護の厳守や事業所が特定されないことを説明した。結果については,本研究以外の目的で使用しないこと,個人が特定されないよう配慮することについて説明を行い,学会発表や論文投稿にデータを使用することの説明を行った。これらの件について同意書記入のもと同意が得られたものとした。

V. 結果

1. 対象者の概要

対象の管理者2名は,どちらも女性で年齢は40~50歳代である。ステーションの看護職員数は看護師常勤換算で5~8人であった。2事業所とも母体は営利法人であるが,そのうちの1事業所は,管理者がステーションや通所介護を直接経営していた。もう1事業所は営利法人の1事業部であり,ステーションの経営のみ任されていた。どちらのステーションも機能強化型訪問看護管理療養費算定の意思はなく,届出はしていなかった。

2. 定性的データの選出と抽象化項目(表札)

2人の管理者へインタビューを行った内容を逐語録とし(総文字数13,110文字),その中から,定性的データ82個が抽出された。この定性的データを抽象化し,抽象化1段階で36項目,2段階で13項目(表1),段階で8項目(表1),さらに抽象化を深め,5段階で,4項目の表札を導き出した(表2)。この4項目を空間配置・図解化を行い(図1),その図解から6段階で3項目,7段階で核となる表札2項目(表3)を導き出した。

1) 抽象化3~5段階(表1表2

抽象化3段階から5段階で捉えた管理者の志向は次の4項目であった。

(1) 裁量権と意志

管理者は,「請求事務の難しさや,利用者の数とスタッフの給料との折り合いなど事業所の維持に精神的に追い込まれもしたが,経営を任されていること,訪問看護をやりたいという意志があれば,乗り越えられる」と,ステーション運営は,裁量権と訪問看護への強い意志にあった。

(2) 最低限のベース─下位項目①折り合い②変動対応

収益には変動があり,2社,3社で関わるという形を導入し,またサービス査定とスタッフの給与との折り合いをつけ,最低限のベースを保つことで余裕をつくる。

① 折り合い

管理者は,「運営には,スタッフの維持が一番で,利用者のニーズに応えるサービス査定と給料との折り合いをつけ,最低限のベースを保ち,余裕を持たせている」と,利用者のニーズに応えるサービス査定とスタッフの給料との折り合いをつけながら,無理せず最低限のベースを保持し,余裕をつくることを志向していた。

② 変動対応

管理者は,「医療保険の場合,短期勝負で,収入に波が生じるため体制整備が必要で,経済的な部分とスタッフの負担を考慮し,2社,3社でという形を導入し,また管理者として夜間のオンコールもほとんど取るなどして,変動に対応した体制をとる」と,他ステーションとの補完体制を築き,また自身の身を挺して収益の変動に対応していた。

(3) 事業所間調整─下位項目①取り込み②事業所間調整─a.差異b.利益

収益の維持には介護保険をベースに置いた医療保険の取り込みが必要で,それに付随する事業所間連携には,技術やサービス内容の差異を相互に補完でき,また相互の利益につながる調整がいる。

① 取り込み

管理者は,「収益の維持には,ベースに変動の少ない介護保険を置き,変動あるも収入の大きい医療保険の取り込みが必要で,スタッフ一同,医師やケアマネジャーに報告を確実に行い,顔の見えるステーションにならねばならない」と,介護・医療に係る顔の見えるステーションづくりを志向していた。

② 事業所間調整

2~3事業所のステーションが関わる場合の事業所間連携には,事業所間のマナーや技術面並びにサービス内容の差異を整え,利用者や事業者間相互の利益になるような調整が必要だ。

a. 差異

管理者は,「2~3事業所が入る形は,利用者にとっては,事業所間の技術的かつマナー面が比較の対象になり,一方スタッフにとっても,労働条件の差異が目につき,管理者は,利用者の不満やスタッフの流出など,ストレスになることもある」と,ステーション間の差異がもたらす弊害に気を使っていた。

b. 利益

管理者は,「相互に技術面の学びができることもあり,切磋琢磨できる教育環境づくりが望ましく,利用者をはじめ,事業所間の利益になるような調整がいる」と,差異は学びでもあり,双方に利益になるような調整を志向していた。いわゆるステーション間連携には,ステーション間のマナーや技術面並びにサービス内容の差異を整え,利用者やステーション間相互の利益になるような調整が必要である。

(4) 難点

訪問看護の現状は,看取りまで責任を持てる施設や通所の不足と,協議会・市や県の整合性ある研修計画が不十分で,全体のスキルアップに難がある。

① スキルアップ

管理者は,「協議会は,連携や全体のスキルアップに重要な場であり,この場を強化し,市や県で行う研修と整合性をもつ研修計画が必要だ」と,個ではなく地域全体のスキルアップの重要性を示唆していた。

② 看取り

管理者は,「訪問看護は,利用者の看取りまで責任を持って取り組みたいが,そのための施設や通所が不足している」と,看取りまで責任が持てる,連携のできる施設や通所の整備を志向していた。

表1 抽象化2 段階から3 段階
表2 抽象化3 段階から4・5 段階表札

2) 空間配置・図解化(図1
図1 抽象化5 段階の空間配置・図解化から捉えた機能強化への方向性

3) 抽象化6,7段階(表3

抽象化3段階から5段階で捉えた管理者の志向は次の4項目であった。

(1) 駆使点

管理者は,経営を任されている自負と強い意志で,事業所経営をしているが,その経営には,収益の変動に余裕─最低限のベース維持─で対処できる体制づくりが必要であり,そのためには,事業所間相互の利益につながる調整を駆使しなければならない。

(2) 難点

訪問看護の現状は,看取りまで責任を持てる施設や通所の不足と,協議会・市や県の整合性ある研修計画が不十分で,全体のスキルアップに難がある。

表3 空間配置・図解化で捉えた抽象化6・7 段階表札

4) 叙述

以上の駆使点・難点は,視点を変えれば,中規模ステーションの機能強化を阻む項目であり,機能強化型へ移行するための課題でもある。管理者は,最低限のベースを維持することで精一杯な状況からの脱却が必要であり,そこには介護・医療の需要確保による収益増と変動や維持に対処できる安定した人材確保が必要である。そのためには,事業所間相互の利益につながる調整を駆使しなければならない。さらに,望むものは,看取りまで責任が取れる施設・通所の整備,地域全体のスキルアップである。

VI. 考察

1. 管理者の【駆使点】

1) 裁量権と意志

管理者は,経営の裁量権を持つことで,長期的な視点で収支を考えることができ,収入の増・減にこだわらない采配ができる。石垣ら6)は,ステーションの管理者が裁量権を有する方が,利用者は増加傾向になることを指摘している。本研究対象である管理者も裁量権を持ち,自律することで,自己管理ができ柔軟な運営が可能になっていた。しかし,管理者自身の采配で経営できるようになるまでは,請求事務の難しさや,利用者の数とスタッフの給料との折り合いなど精神的に追い込まれても乗り越えなければならない状況に置かれていた。桶河ら7)は,大規模事業所に比べ,小規模・中規模の管理者の方が,夜間のオンコール待機日数が多いことを提示している。本研究においても,管理者として経営維持のために負担を背負わざるを得ない現状が推察されたが,その負担や経営面での苦悩などを乗り越えるために訪問看護事業に対する強い意志が垣間見られた。

2) 【最低限のベース】

本研究では,収益の変動への対応や維持に多大な労力を費やしている現状を捉えた。介護保険制度をベースに持ちながらも,実際,収益を伸ばすためには医療保険制度による取組が必要である。医療保険制度の利用者は,がん終末期や難病等,医療依存度が高いため,24時間体制,緊急時対応など,スタッフの負担も増える。スタッフの負担を軽減するために複数事業所との共同介入や,「自分が夜間の緊急対応を行い,スタッフを休ませる」と,管理者として負担を背負わざるを得ない現状があった。機能強化よりも余裕を持たせた【最低限のベース】に目標を置いていた。

3) 事業所間調整

共同介入を行った場合,この体制には事業所間の技術やマナー的な差異があり,この差異が利用者やスタッフのストレスの原因ともなる。利用者の不安増大やスタッフのストレスフルな状況を打破するには事業所間の調整が必要であり,管理者には個々人,事業所間の総合的な調整力が求められる。

中規模ステーション管理者の現状は,個人の力量の範囲【最低限のベース】で,余裕を志向した事業所運営をしている。現状からは,スタッフの維持に精いっぱいの状況が窺えた。

2. 【難点】の克服

本研究では,管理者は,個々ではなく地域全体のスキルアップの重要性を示唆していた。技術面やマナー面にかかる事業所間の差異の個別調整には限界がある。一方,行政(県や市)での研修は,育児や家事を抱える訪問看護師にとっては,物理的・精神的に負担がある。本研究のインタビューでは「仕事と家事と育児を抱えている看護師にとって,研修3時間,移動2時間とられるのは負担がかかりすぎる」と言う意見が聞かれた。柴田ら8)の研究においても訪問看護師が抱く困難感として「家庭と両立の困難さ」を述べている。保育所との兼ね合いから,周りに協力してくれる家族等がいないと,研修等の参加も厳しい状況になる事が考えられた。

機能強化型訪問看護ステーションの役割の一つに「人材育成」がある4)。この人材育成には,ステーション内の研修にとどまらず,地域の訪問看護師の育成を行う役割も担っている。地域全体のスキルアップの向上には,地域の協議会や機能強化型訪問看護ステーションの研修機能の充実強化が図れるシステムの構築が必要である。身近で研修体制の構築が図られることによって,地域の訪問看護師が研修を受講しやすく,地域全体のスキルアップに繋がる。また,行政の的確かつ簡易な制度情報の伝達,具体的な推進法の普及啓発などの支援体制が求められる。その他,看取りまで責任が取れる施設・通所の整備も検討していく必要がある。

3. 機能強化への提言

本研究における中規模ステーション管理者は,機能強化よりも余裕を持たせた最低限のベースに目標を置かざるを得ない【駆使点】と【難点】があった。事業所間相互の利益に繋がるように調整する【駆使点】,全体のスキルアップが困難である【難点】は自助努力での解決は難しい。同事業所間の共助,政策としての地域包括ケアシステム開発に取り組む行政との協働による公助の充実が不可欠である。

訪問看護アクションプラン2025 では9),地域の協議会について,チームとしての視点を持ち,在宅における医療・介護に関する情報の集約・発信拠点となるべきことを提示している。まずは,地域の機能強化型訪問看護ステーションや協議会が団体として日常の混迷の実態を結集し,情報の集約・発信拠点としての機能強化を図ることが必須である。そして,地域包括ケアシステムの一環として,在宅療養者の権利擁護に影響力をもつ確たる団体へと進展させることが重要である。

4. 研究の限界

今回の調査の対象は,某地区の営利法人ステーションの管理者で,かつ2ヶ所である。ゆえに,限局された地域特性や母体組織でのデータと言える。しかし,ステーションの発展を願い研究協力をいただいた結果,貴重な成果を得られたことに感謝したい。今後は,幅広い対象に協力をいただき,研究を深めていきたい。

VII. 結論

中規模ステーション管理者には,機能強化よりも余裕を持たせた【最低限のベース】に目標を置かざるを得ない【駆使点】と【難点】があった。【駆使点】は,収益の変動や維持に対処できる安定した人材確保,また介護・医療の需要確保,並びに個々人や事業所間の総合的な調整があった。【難点】は,地域全体のスキルアップと,看取りまで責任が取れる施設・通所の整備である。これらの【駆使点・難点】は自助努力での解決は難しい。同事業所間の共助,行政との協働による公助の充実が不可欠である。【最低限のベース維持】の脱却には,まずは,自助努力では脱却できない【駆使点・難点】を認識することが大事である。そして在宅療養者の権利擁護者としての職責を果たすために,その解決に動かねばならない。

VIII. 謝辞

本研究にご理解,ご協力いただいた訪問看護ステーション管理者の皆さまに心より感謝申し上げます。なお,本論文は修士論文を一部加筆修正したものである。

IX. 利益相反

この論文に関し開示すべきCOI はありません。

X. 引用文献
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