2023 年 72 巻 1 号 p. 62-75
研究目的:本研究は,地域保健行政に従事する管理職保健師が,管理職としての職務遂行上に認知するコンフリクトの実態と,その要因を明らかにすることを目的とした.
研究方法:層化無作為抽出により選定した14都道府県下,384名の管理職保健師を対象に,自記式質問紙調査票を用いた郵送調査を実施した.主な調査内容は,基本属性,管理職の職務遂行上において認知するコンフリクトの実態,対処スタイルであった.分析方法は,記述統計,平均の差の検定,コンフリクトの認知頻度を従属変数,回答者の基本属性,コンフリクトの対処スタイルを説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.統計解析にはSPSS Ver.25を使用し,両側検定5%を有意水準とした.
結果:回答数(率)は242(63.0%),有効回答数(率)は223(61.5%)であった.コンフリクトの認知頻度が高いと回答した者は51(21.6%)であった.全業務量に比し,コンフリクトへの対処のために要する時間の割合は平均24.3%であった.コンフリクトの対処スタイルは「お互いの考えを理解する”統合”」が69(29.2%)と最も多く,次いで「議論を回避する”回避”」63(26.7%),「お互いの目的を尊重する”統合”」48(20.3%)であった.重回帰分析を用いて,コンフリクトの認知頻度に影響を与える要因を検討した.その結果,管理職の業務割合との間に正の関連,部下の職種の数,対処スタイルの“統合”,上司の職種,人口規模の間に負の関連が認められた.
結論:管理職保健師の約 2 割が職務遂行上のコンフリクトを頻繁に認知し,その対処のために全業務量の1/4の時間を費やしていた.コンフリクトの対処スタイルの”統合”は,双方が満足する解決策を導く望ましい方法とされている.管理職保健師が,望ましい対処スタイルを選択することが,職務遂行上の一助となる可能性が示唆された.