2025 年 74 巻 3 号 p. 222-229
2021年に開催された東京栄養サミットにおいて,日本政府は「誰一人取り残さない」栄養政策をさらに促進することを国際社会に対して誓約し,産学官,職能団体,市民社会など多様な主体と連携しながら,健康的で持続可能な食環境づくりに取り組む姿勢を明確にした.この国際的コミットメントも踏まえ,厚生労働省では2022年3月,「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」(食環境戦略イニシアチブ)を創設した.食環境戦略イニシアチブは,非感染性疾患(Noncommunicable Diseases; NCDs)の主要なリスク要因である不健康な食生活を是正するため,産学官,職能団体,市民社会等との連携・協働のもと,自然に健康になれる食環境づくりを展開することを目的としている. 食環境戦略イニシアチブでは,日本の喫緊の栄養課題として「食塩の過剰摂取」を最重要課題に位置づけるとともに,「若年女性のやせ」や「経済格差に伴う栄養格差」など,社会的背景に根差した課題にも対応している.さらに,気候変動などの環境的要素も視野に入れ,健康と環境の双方に配慮した政策展開が試みられている.推進にあたっては,栄養を中核に据えた多部局・多機関連携が重視されており,厚生労働省は関係省庁と連携しながら,国・自治体・民間の取組を包括的に推進している. こうした食環境づくりを地域特性に応じて全国で展開することが重要であることから,「健康日本21(第三次)」における「自然に健康になれる環境づくり」の目標指標として,「「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」に登録されている都道府県数」を掲げている.さらに,国と都道府県等の取組を相補的・相乗的に展開するため「健康的で持続可能な食環境づくりのための国・都道府県等アライアンス」(食環境アライアンス)の構築が進められている. 本稿では,こうした食環境戦略イニシアチブの取組の概要,国際的な情報発信等について概説する.