2019 年 5 巻 1 号 p. 29-33
高齢化社会が加速する現代,認知症患者は激増し社会問題になっている。漢方医学では抑肝散が頻用投与され,陽性BPSDを中心に一定の効果が得られている。今回,元来極度の虚寒証(胃腸虚弱,軟便下痢傾向)で記銘力低下と全般的意欲の低下した認知症に真武湯を隋証投与し,著効を得た症例を経験した。認知症の進行とともに,冷え,消化器症状が悪化し,意欲,身体活動性がさらに低下するという悪循環に陥っていた。真武湯の服用により,胃腸機能は改善し,意欲,身体活動性が回復し,通所リハビリテーションを積極的に行えるようになった。高齢者において,証に基づいて漢方薬を選択し,より状態を中庸に導くことが,認知症の進行抑制,さらには健康回復に有用性が高いことが示唆された。