【背景】 三叉神経痛に対しては,微小血管減圧術 (MVD) が確立した根治療法であるが,しばしば疼痛の残存・再発例を経験し,治療に難渋する。我々はそのような症例に対する漢方薬の効果を検証したので報告する。
【対象と方法】 当院で2012年から2019年までに微小血管減圧術を施行した三叉神経痛174例のうち,術後に疼痛が残存もしくは再発した51例 (29.3%) を対象とし,漢方薬の治療効果を後方視的に検討した。
【結果】 51例中36例 (70.6%) で漢方薬を使用し,五苓散21例,桂枝茯苓丸18例であった。全例で投与に伴う副作用は認めなかった。36例中漢方薬のみで疼痛がコントロールしえた症例は10例で,五苓散5例,桂枝加朮附湯3例,両者併用2例であった。15例で他剤との併用で疼痛がコントロールされ,11例で無効であった。漢方薬とカルバマゼピン (CBZ) 併用例のうち,疼痛がコントロールされた12例では,術前後で投与量が平均462.5 mgから225 mgへと有意に減少していた (p<0.01)。
【考察】 三叉神経痛に対するMVD術後の疼痛残存・再発例では,特に高齢者で忍容性が高くないCBZの術前通りの投与は困難な場合が少なくない。我々は漢方薬を用いることで,より安全に疼痛のコントロールが可能な症例を複数経験した。MVD術後の疼痛再発,残存例では術前よりも疼痛が軽減している可能性があり,CBZの再開に先んじて漢方薬を選択することも考慮しうる思われた。
【結語】 MVD術後の疼痛残存・再発例に対する漢方薬投与は,安全かつ有用な治療選択肢の一つと思われた。
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