2024 年 31 巻 3 号 p. 894-934
日本語のライトノベルでは,登場人物毎に異なる口調(話し方のスタイル)を用い,その口調によってセリフの話者を暗示させる技法がしばしば用いられる.「セリフの書き分け」と呼ばれるこの小説技法は,多くの口調が存在するという日本語の話し言葉の特徴を利用している.この技法が使われる小説では,地の文を主要な手がかりとする話者推定法だけでは,正しい話者を推定することが難しい.本研究では,口調を利用した話者推定を実現するために,以下のことを行った.(1) 小説のセリフを,その口調の特徴を埋め込んだベクトル(口調ベクトル)に変換する口調エンコーダを提案した.(2) 口調エンコーダを利用して,セリフの話者を自動同定する手法(口調に基づく話者同定)を提案した.(3) この手法の前段に話者候補生成モジュールをつなげた話者推定システムを実装した.このシステムを用いて 5 つの作品に対して話者推定実験を行い,4 つの作品に対してベースラインを上回る結果を得た.