自然言語処理
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エラータグ付き学習者コーパスを用いた日本人英語学習者の主要文法形態素の習得順序に関する分析
和泉 絵美内元 清貴井佐原 均
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2005 年 12 巻 4 号 p. 211-225

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抄録

外国語教育において, 学習目標言語を構成する様々な形態素を, どの順序で学習者に教示すれば, よりよい効果が得られるかという点について考慮することは重要である.そのためには, 学習者がどういった順序で主要な形態素を習得していくのかというメカニズムを知ることが必要となる.1970年代ごろから盛んに行われてきた第二言語学習者の文法形態素の習得過程を解明する研究によって, いくつかの異なるバックグラウンド (母語・年齢・学習環境など) を持つ学習者グループ間に共通の習得順序が存在するという説が一般的であった.一方, 1980年代以降行われた, 日本語を母語とする英語学習者の習得順序に関する研究では, それまでに明らかになっていた他の母語を持つ英語学習者の習得順序とは相関の低い結果が得られ, 「学習者の母語・年齢・タスク・学習者環境等の違いによって, 習得順序は変動する」という新たな説が生まれた.本研究では, 日本語母語話者の英語発話コーパスであるThe NICT JLE (JapaneseLearner English) Corpusのエラータグ情報を利用して, 主要文法形態素の習得順序を解明し, その結果がこの相反する二つの説のどちらを支持し得るものであるか, 考察した.分析の結果, The NICT JLE Corpusでの習得順序は, 前者の説における習得順序とは相関は低く, 後者の説の基になった, 日本語を母語とする学習者を対象に行われた先行研究での順序と相関が高いことが判明した.いくつかの顕著な差異のうち, 特に, 冠詞・短複数形の-sといった, 日本語において該当する指標がない形態素が遅れて習得される傾向にあることが分かった.このことから, 本研究の結果は, 「学習者のバックグランドの違いによって習得順序にも違いが生じる」という説をサポートし得るものであると考える.また, 最後に, The NICT JLE Corpusに付与されているエラータグやスピーキング能力レベル情報を用いて習得順序研究を発展させ, 英語教育現場に応用する可能性についても検討した.

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