抄録
「です・ます」は, 丁寧語としての用法のみならず場面に応じてさまざまな感情・態度や役割の演出などの表示となる.これは「です・ます」が持つ「話手と聞手の心的距離の表示」という本質と, 伝達場面における話手/聞手のあり方とその関係の変化によつて生じるものと考えられる.本稿では「です・ます」をはじめ聞手を必須とする言語形式を, コンテクストとは独立して話手/聞手の〈共在〉の場を作り出す「共在マーカー」と位置づけ, コンテクストにおける聞手の条件による「共在性」と組み合わせることで伝達場面の構造をモデル化した.コミュニケーションのプロトタイプとしての〈共在〉の場では, 「です.ます」の本質的な機能が働き心的距離「遠」の表示となる.これに対して〈非共在〉の場では, 典型的には「です.ます」は出現しない.しかし, 〈非共在〉の場合でも共在マーカーが使用されると話手のストラテジーとして疑似的な〈共在〉の場が作り出される.この場合, 共在マーカーとしての役割が前面に出ることによって聞手が顕在化し, 話手/聞手の関係が生じて「親.近」のニュアンスが生まれる.「です・ます」が表す「やさしい」「わかりやすい」「仲間意識」などの「親.近」の感情・態度は〈非共在〉を〈共在〉にする共在マーカーの役割によって, 「卑下」「皮肉」といった「疎・遠」の感情.態度は〈共在〉での心的距離の操作による話手/聞手の関係変化によって説明できる.