抄録
手話は言語でありろう者の母語である.手話と音声言語の間のコミュニケーションには手話通訳が必要となるが, 手話通訳士の数は圧倒的に不足している.両言語間のコミュニケーションを支援する技術が期待される.本論文は日本語と手話との間の機械翻訳を目指して, その一つのステップとして, 日本語テキストから手話テキストへの機械翻訳を試みたものである.機械翻訳をはじめとする自然言語処理技術はテキストを対象としているが, 手話には文字による表現がないため, それらを手話にそのまま適用することができない.我々は言語処理に適した日本手話の表記法を導入することで, 音声言語間の翻訳と同様に, 日本語テキストから手話テキストへの機械翻訳を試みた.日本語から種々の言語への機械翻訳を目的として開発中のパターン変換型機械翻訳エンジンjawをシステムのベースに用いている.目的言語である手話の内部表現構造を設定し, 日本語テキストを手話の表現構造へ変換する翻訳規則と, 表現構造から手話テキストを生成する線状化規則を与えることで実験的な翻訳システムを作成した.日本手話のビデオ教材等から例文を抽出し, その翻訳に必要な規則を与えることで, 日本語から手話に特徴的な表現を含んだ手話テキストへの翻訳が可能であることを確認するとともに, 現状の問題点を分析した.