抄録
我々が日常行っているおしゃべりのように明確な目標の定まっていない対話では, 話者は事前に対話戦略を立てることができない. そのような対話では話者は, その場で断片的に思い付いたことを発話し (即興性), 相互に触発されて新しい考えが浮き上がり (創造性), 全体で一つの対話を作っていく. 我々は, 即興性と創造性を備えた対話を創発的な対話と呼び, このような対話を収録し, 対話コーパスとして整備することを考えた. 対話の収録には, 解き方や正解かどうかの判定が明確になっていない課題を二人で協調して解く課題を用い, 「画像と音声を用いた対話環境」と「音声だけの対話環境」の2つの条件で実験を行った. 収録した対話には, 相手の立場を尊重し互いに良い関係を作っていくことを目的とした共話現象や, さまざまな同意表現の使われ方が観察され, これまでのような目的指向対話には見られない特徴のある対話コーパスが得られた.