抄録
了解という言語現象が言語行為の分析にとって重要であることが, Austinによって指摘された. しかし了解に関しては, これまで十分な分析が行なわれてこなかった. 本論文では, 了解の語用論的な分析を行った. 語用論的な分析をするためにAustinとSearleによる言語行為論の拡張を行い, 拡張言語行為論の枠組みを提案した. その枠組みには以下のような特徴がある.
・新たに二つの概念要素 (隠蔽された命題行為と意図) を既存の言語行為論に取り入れている.
・既存の言語行為論における発語媒介行為と発語媒介的効果を, それぞれ, 二種類の行為および四種類の効果に分割している.
その結果, 拡張言語行為論の枠組みは13の概念要素からなることになった. 提案した枠組みに基づいて, 了解の代表的表現のひとつである「はい」の意味の多様性を, 了解の過程・程度を軸にして語用論的に分析した. 分析の結果, 了解の程度には八つの段階, 了解の過程には七つの段階があることが明らかになった.