本稿ではこれまでのリスク論による科学の類型化の試みを概観し,社会的意思決定を前提とした議論に代わり,科学という営為に根差した類型論を試みる.実証主義と社会構成主義による対立的な見方を解消すべく,批判的実在論に基づいた存在論,認識論,方法論の三つの審級と,それらを縦断するように対象,系,系との社会相互作用,それら全般という科学の範囲ごとに焦点を当てた四つの項目によって,不定性の15類型を描き出し,地震学を例にその意義を議論する.その結果,科学という営為にかかる不定性の内因性と外因性を階調的に識別できた一方で,量子力学のように階層を縦断したり,科学の範囲を横断するような事例が明らかとなった.しかし,不定性の類型化そのものの不定性は,その克服への絶え間ない挑戦を通して,むしろ科学者に規律と責任を与えることが期待される.