日本医科大学雑誌
Online ISSN : 1884-0108
Print ISSN : 0048-0444
ISSN-L : 0048-0444
小児大発作てんかんの終夜脳波的研究
治療経過に伴うてんかん波数の推移および終夜脳波記録法と通常睡眠脳波記録法による所見の一致性の検討
岡田 一芳藤井 栄一
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 58 巻 1 号 p. 50-64

詳細
抄録
未治療のJanz1) の睡眠てんかんに相当する大発作型てんかん児8例にPB投与し, 終夜脳波記録とPB血中濃度測定を, 服薬開始前, 服薬開始3日後, 14日後, 1ヵ月後, 6ヵ月後, 1年後, 1年6ヵ月後, 2年後の時点に行い, てんかん波出現頻度の推移を観察し, 以下の結果を得た.
1) てんかん波出現頻度の推移は再増加型, 単純減少型の2型に分類しえた. また, それら両者の判定は治療開始後1ヵ月までのてんかん波出現頻度の動向により予測しえた.
2) 全例において, PB有効濃度に達する以前の服薬3日後の時点に, てんかん波が減少し始めることが観察され, 初回脳波記録までに服薬開始された症例では, てんかん波検出が困難である可能性が示唆された.
3) 治療経過に伴うてんかん波出現頻度の各睡眠段階毎の推移について再増加型, 単純減少型にかかわらず側頭部焦点性棘波をもつ症例では比較的変動が少なく, 横断的観察の対象となりえると思われた.
4) 各睡眠段階間の相対的てんかん波出現頻度の推移について,
i) REM期についてみると, 再増加型では治療経過中NREM期の各睡眠段階のてんかん波出現頻度との比較よりみるとほぼ一定の割合で出現しており, 単純減少型では治療経過により, 速やかに減少していった.
ii) NREM期での各睡眠段階間の相対的てんかん波出現頻度は再増加型では, 治療経過中ほぼ一定しており, 単純減少型では, 相対的高頻度のてんかん波出現頻度が1つの睡眠段階に収束されていった.
5) 睡眠前半と後半のてんかん波出現頻度の変動について, 睡眠前半に比し, 後半において高頻度であるという関係が多くの記録夜に認められた. ことに再増加型では, 治療経過に関係なく, この傾向は全経過を通じて認められた.
6) 側頭部焦点性てんかん波を有する症例のS2におけるてんかん波出現頻度の入眠後経過では, 治療前には, V字型が多く認められたが, 加療により種々変動し, 治療前の形式が持続することはなかった.
7) 終夜脳波記録法と通常睡眠脳波記録法における脳波所見の一致性について
i) 両記録法によるS1-S2間での脳波所見において, 増減パターンは, 52夜記録中29夜 (約56%) において一致しており, 特に治療前である初回記録時によく一致していた.
ii) 単にてんかん波検出のみを目的とする場合は85%の一致率がえられ, 終夜脳波に頼らなくとも, 通常睡眠脳波記録法によって, かなり正確な結果が得られることが推測された.
しかし, てんかん波の厳密な検出に際しては, 終夜脳波記録もしくはS3までの長時間記録によらなければならない余地も認められた.
以上より, 今回の終夜脳波学的検討においては治療経過による影響が認められ, てんかん波出現頻度の変動を一定のパターン化して分類観察することには問題が生じやすいが, 一方, 終夜脳波記録法によらなくても, 通常睡眠脳波記録法のみでも, てんかん波出現の有無や増減の判定など, 日常診療上においては, 大きな問題は生じないものと考えられた.
著者関連情報
© 日本医科大学医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top