日本神経回路学会誌
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昆虫の嗅覚やその機能からセンサを再現する
光野 秀文祐川 侑司櫻井 健志神崎 亮平
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2021 年 28 巻 4 号 p. 162-171

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抄録

昆虫は環境中の多種多様な化学情報(匂い情報)を,触角の嗅覚受容体を使って検出し,脳内で情報処理することで環境適応行動を示す.およそ20年前に初めてキイロショウジョウバエの嗅覚受容体が発見されて以降,現在までにさまざまな昆虫種で嗅覚受容体が同定され嗅覚機能の解明が進み,匂いに対する応答特性から,応答特性の情報処理機構,環境適応行動の発現に至るしくみが明らかにされつつある.また,所望の昆虫種での遺伝子組換え,異生物種培養細胞での嗅覚受容体機能の再構築など,対象遺伝子を人工的に操作する遺伝子工学技術が進展してきた.現在では,昆虫の嗅覚機能の知見と遺伝子工学技術を活用して昆虫の嗅覚のしくみを部分的に再現することにより,嗅覚受容神経の嗅覚受容体の遺伝子を組換えることで対象の匂い物質(対象臭)を探索し定位できる「センサ昆虫」,対象臭を蛍光変化として検知できる「センサ細胞」の開発が可能となってきた.さらに,複数種類のセンサ細胞をアレイ化することで,生物のように応答パターンで匂い混合物の識別や濃度を定量できる「匂いセンサ技術」の開発も可能となってきた.このように,匂いセンシング技術の一つとして昆虫の嗅覚の有用性が実証され,一部の技術では社会実装に向けた研究も活発に進められている状況にある.

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© 2021 日本神経回路学会
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