日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
Print ISSN : 1340-766X
ISSN-L : 1340-766X
最新号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
解説
  • 清川 泰志
    2024 年 31 巻 2 号 p. 55-62
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,ラットがフェロモンを介して不安や安心といった情動を伝えるコミュニケーションの概要を紹介する.ストレッサーに曝されたラットが肛門周囲部より放出する4–メチルペンタナールとヘキサナールの混合物が警報フェロモンとして機能する.4–メチルペンタナールは鋤鼻系で,ヘキサナールは主嗅覚系でそれぞれ受容された後に扁桃体内側核後腹側へと伝達され,そこで情報が統合された後に分界条床核へと伝達される.その結果,分界条床核を活性化し,フェロモンを嗅いだラットに様々な不安反応を引き起こす.一方,自分と同じ集団に由来する,自分が好む系統のラットが頸部から放出する2–メチル酪酸が安寧フェロモンとして機能する.2–メチル酪酸は主嗅覚系で受容された後,前嗅核後部,外側扁桃体核間細胞塊,扁桃体外側核へと伝達されていき,扁桃体外側核を抑制する.その結果,安寧フェロモンを嗅いだラットの恐怖反応を緩和する.不安や安寧など,動物の生存に根源的に関わる脳活動は哺乳類に共通していることから,ラットにおいて情動コミュニケーションを解析していくことは,哺乳類の自然な行動を理解するための良い手段であると考えている.

  • 川崎 真弘
    2024 年 31 巻 2 号 p. 63-70
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/05
    ジャーナル フリー

    ヒトとヒトのコミュニケーションには無意識的な他者との行動リズムの同期が見られ,他者とのコミュニケーションの成立において重要な役割を担う.このような他者との同期をはじめとした社会性に関係する認知脳科学研究では,複数名の脳活動を同時に計測し,別個体の脳活動間の関係を分析するハイパースキャニングと呼ばれるアプローチが増えている.本稿はコミュニケーションにおける二者間の行動リズムの同期に伴って二者の脳波リズム間の同期(脳間同期)を示したハイパースキャニング研究を紹介し,この脳間同期が何を反映しているのか,コミュニケーションにどのように影響するのか,を知覚運動連関の観点で解説する.さらに,コミュニケーションと脳間同期の因果関係などの脳間同期の解釈の問題点とともに,将来の社会応用への期待などを議論する.

  • 白土 寛和
    2024 年 31 巻 2 号 p. 71-81
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/05
    ジャーナル フリー

    人は,互恵性の規範,すなわち個人間で利益や利点を相互に交換すべきであるという社会通念を理解することにより,特定の社会的文脈に合わせて適切な行動をとることができる.また人々は,互恵性を共有することにより,他者との共存や社会的発展を可能にする.しかしながら,人工知能を搭載した機械がそうした社会生活の基盤を考慮せず,人の意思決定プロセスへ介入し始めている.本稿では,著者らが行った社会実験の結果に基づき,人工知能が互恵性に与える影響について解説する.まず,運転時に協調行動が必要とされる状況において,個人の安全を支援するシステムが,運転者間の互恵行動を抑制することを紹介する.次に,人工エージェントが互恵性の規範を考慮することにより,人々の社会的交換や協力行動を促せる可能性を,社会的ネットワークの理論およびその実験結果から示す.これらの研究を通じて,人工知能の設計においては互恵性の規範など人の社会的知性を考慮すること,また人の意思決定の研究においては社会的ネットワークの中でそのプロセスを理解することの重要性を論じる.

  • 小川 昭利
    2024 年 31 巻 2 号 p. 82-89
    発行日: 2024/06/05
    公開日: 2024/07/05
    ジャーナル フリー

    経済的意思決定は,利得・価値の異なる複数の選択肢から個体の効用を最大化するような選択肢を選ぶことである.素朴に考えると効用は利得そのものあるいは利得の期待値であるが,我々人間はそのような意思決定からは乖離した行動をしばしば取る.リスク回避傾向や時間選好などの個人の持つ選好の他に,他者との関わりの中で規定される不平等回避や互恵性などの社会的選好によっても経済的意思決定は影響を受ける.本稿では,他者と分配を行う場面での経済的意思決定に注目して,社会的選好が経済的意思決定をどのように調節するかを明らかにする脳イメージングの研究について解説する.数理モデルを用いて社会的選好がどのように経済的意思決定を調節するかをモデル化する方法と,脳刺激によって経済的意思決定における刺激部位の機能的役割を因果的に示す方法について,著者が行った脳イメージング研究を題材に説明する.最後に,今後の経済的意思決定の脳イメージング研究について展望する.

論壇
feedback
Top