看護理工学会誌
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原著
妊娠初期から出生後にわたる母と胎児の心音由来のリアプノフ次元の変化:カオス理論的解析
石山 さゆり田原 孝岩永 浩明大橋 一友遠藤 誠之
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2025 年 12 巻 p. 67-75

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抄録
 リアプノフ次元は,システムのカオス的な複雑さや動的挙動を表している.本研究の目的は,妊娠初期から出生後までの母児ペアの心音由来のリアプノフ次元の変化を考察することである.妊婦4人とその胎児の妊娠初期から出生後までの心音の時系列データを求めた.心音測定は,声掛けの有無などの5つの条件下で行った.得られたデータを妊娠初期,中期,後期,出生後の4相に区分し,母と胎児それぞれの相ごとのリアプノフ次元の中央値を求めた.その結果,母のリアプノフ次元は5次元の相空間の中で妊娠期から出産後にかけて有意に変化せず,胎児(出生後の児)では妊娠初期から出生後にかけて有意に増大した(p<0.001).両者は出生後に同一次元に収束した.母は一貫して成熟したカオス状態を維持しており,リアプノフ次元は変化しない.胎児は成長とともにリアプノフ次元を増大することで新たな相空間を獲得し,より複雑なカオス状態へと変化していく.

【キーメッセージ】
1.今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?
 研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?
→生体は決定論的カオス(カオス)であり,人の成長,身体,精神の状態をよく表わす.リアプノフ次元は対象のカオス的な複雑さを反映する.これを妊娠中の母児の変化に適応した.

2.この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?
→ カオス理論・解析の導入は,看護領域に従来とは異なる知見を広くもたらす.対象の全体的理解の基盤となるリアプノフ次元の解析は,看護における人の成長・発達理解の基本的な枠組みを提示する.

3.今後どのような技術が必要になるのか?
→カオス・複雑系理論による解析と分析のさらなる開発を必要とする.
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