原子力バックエンド研究
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研究論文
原位置トレーサー試験による堆積岩中の掘削損傷領域内の移流分散評価
武田 匡樹石井 英一
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2024 年 31 巻 1 号 p. 3-10

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抄録

 割れ目の自己閉塞が期待できない岩盤においては,地下施設の建設時に立坑や坑道沿いに掘削損傷領域と呼ばれる高透水性領域が形成され物質の移行経路となる可能性がある.そのため,高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では,処分坑道やアクセス坑道における掘削損傷領域内の核種移行特性の把握が重要な課題となる.岩盤中の核種移行特性を評価する上でトレーサー試験が有効であるものの,堆積岩中の掘削損傷領域を対象としたトレーサー試験の事例は著者らの知る限りではない.著者らは幌延深地層研究センターの地下施設(幌延URL)において珪質泥岩中の掘削損傷領域の割れ目を対象とした孔間トレーサー試験を実施した.孔間トレーサー試験は幌延URLの深度350 mに並走する2本の水平坑道の一方からもう一方の掘削損傷領域に向けて掘削された2本のボーリング孔(H4-1孔およびP孔)で実施し,トレーサーにはウラニンを用いた.注入孔(H4-1孔)から注入したトレーサーは揚水孔(P孔)以外の場所においても観測されたものの,揚水孔では,疑似的な定常注入に応じた破過曲線が取得できた.トレーサー試験データに基づき,注水区間と揚水区間の直線距離(4.2 m)を移行経路長とした,一次元移流分散解析を行った.その結果,破過曲線を概ね再現でき,移行経路の断面積(5.2×10-3 m2)および移行経路中の平均流速(2.3×10-4 m/min)が推定されるとともに,上記の移行経路長に対する縦方向分散長として0.12 mが導出された.掘削損傷領域の割れ目がネットワークを形成し,割れ目内の移行経路が屈曲している可能性を考慮すると,移行経路の断面積はさらに小さく見積もられる.移行経路長に対する縦方向分散長の割合は3%で,天然の割れ目や岩盤基質部で経験的に知られる移行経路長と縦方向分散長の関係と同様であった.今回の試験により,天然の割れ目や岩盤基質部と同様な移流分散効果が堆積岩中の掘削損傷領域内でも期待できることが示された.

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© 2024 一般社団法人日本原子力学会 バックエンド部会
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