原子力バックエンド研究
Online ISSN : 2186-7135
Print ISSN : 1884-7579
ISSN-L : 1343-4446
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研究論文
  • 武田 匡樹, 石井 英一
    2024 年 31 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2024/06/15
    公開日: 2024/07/06
    ジャーナル フリー

     割れ目の自己閉塞が期待できない岩盤においては,地下施設の建設時に立坑や坑道沿いに掘削損傷領域と呼ばれる高透水性領域が形成され物質の移行経路となる可能性がある.そのため,高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価では,処分坑道やアクセス坑道における掘削損傷領域内の核種移行特性の把握が重要な課題となる.岩盤中の核種移行特性を評価する上でトレーサー試験が有効であるものの,堆積岩中の掘削損傷領域を対象としたトレーサー試験の事例は著者らの知る限りではない.著者らは幌延深地層研究センターの地下施設(幌延URL)において珪質泥岩中の掘削損傷領域の割れ目を対象とした孔間トレーサー試験を実施した.孔間トレーサー試験は幌延URLの深度350 mに並走する2本の水平坑道の一方からもう一方の掘削損傷領域に向けて掘削された2本のボーリング孔(H4-1孔およびP孔)で実施し,トレーサーにはウラニンを用いた.注入孔(H4-1孔)から注入したトレーサーは揚水孔(P孔)以外の場所においても観測されたものの,揚水孔では,疑似的な定常注入に応じた破過曲線が取得できた.トレーサー試験データに基づき,注水区間と揚水区間の直線距離(4.2 m)を移行経路長とした,一次元移流分散解析を行った.その結果,破過曲線を概ね再現でき,移行経路の断面積(5.2×10-3 m2)および移行経路中の平均流速(2.3×10-4 m/min)が推定されるとともに,上記の移行経路長に対する縦方向分散長として0.12 mが導出された.掘削損傷領域の割れ目がネットワークを形成し,割れ目内の移行経路が屈曲している可能性を考慮すると,移行経路の断面積はさらに小さく見積もられる.移行経路長に対する縦方向分散長の割合は3%で,天然の割れ目や岩盤基質部で経験的に知られる移行経路長と縦方向分散長の関係と同様であった.今回の試験により,天然の割れ目や岩盤基質部と同様な移流分散効果が堆積岩中の掘削損傷領域内でも期待できることが示された.

  • 菊池 広人, 宇田 俊秋, 林 大介, 江守 稔, 木村 駿
    2024 年 31 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2024/06/15
    公開日: 2024/07/06
    ジャーナル フリー

     高レベル放射性廃棄物の地層処分において検討されている緩衝材ブロックを用いた処分孔竪置き方式では,緩衝材定置後から処分坑道の埋戻し材の施工完了までの間に,処分孔内へ流入する地下水の排水に伴い緩衝材の一部が流出し,人工バリアとしての機能に影響を及ぼす可能性が懸念されている.本研究は,SKBが提案するErosion modelを基に,わが国の地質環境への適用性を確認するとともに,工学的な判断(処分孔の利用可否や適切な対策の選択)を支援するための,緩衝材の流出量をより適切に評価できるモデルの開発手法の枠組みの構築を試みた.幌延URLの試験孔を利用した原位置流出試験により,Erosion modelの基となる定流量条件による要素試験とは異なる,時間経過に伴う地下水の流量の低下や,緩衝材の流出が停止する現象を確認した.これらの現象から湧水量,周辺岩盤と処分孔の水頭差,水質,材料の特性,処分孔内の状態などの影響因子を把握した.これらの知見を踏まえて,原位置で把握が可能な情報である孔内外水頭差および孔内湧水量,緩衝材の流出が懸念される期間を主な引数とした流出量評価モデルを,水頭差を制御した定水位での要素試験に基づき整備した.本検討において構築した流出量評価モデルは,Erosion modelに比べてより現実的な評価に近づけることができた.また,一連の取組を通して流出量評価モデルの開発手法を構築するとともに今後の課題について整理した.

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