国際的には小農の評価が進んでいる.その背後には,工業的な食農システムからの転換が必要だという認識が2010年代以降高まっていることがある.1970年代に始まるヨーロッパの小農研究のひとつの到達点は再小農化/新しい小農論であるが,これも「食の帝国」による/への剥奪と依存に抗するための自律と生存を目指すという点で同じ地平に立つ.ヨーロッパ小農研究に新機軸をもたらしたのは南米の小農運動との出会いだった.その柱をなすアグロエコロジーも,単なる技術論や農地生態系のレベルを超えて食農システム全体を変えることを目指している.ところが,アグロエコロジーが世界に広がる中で社会的実践や政治性が抜け落ち,工業的食農システムの欠陥を技術的に補完するものと見なす傾向が目立ち始めた.この「制度化の罠」は,運動的側面が弱くなり,経済的な側面が強調されるに至った日本の有機農業運動がたどった道でもある.有機農業論の深化とは裏腹に,実際に拡大している有機農業は,循環と多様性を重視する本来的なものではなく,「モノカルチャー型」のそれである.こうした二極化の中で,どの方向を目指すのかが現代的な課題として突きつけられている.日本の農業政策も農業研究もいまだ経済重視路線にこだわっており,そのことが小農軽視をもたらしている.しかし実際には,アグロエコロジー的実践を行う小農が族生している.その可視化と小農的発展の方向性を明示することが緊急の課題として浮上している.