耕さず,草を生やし,ごく少量の有機質肥料の投入で作物栽培を行う自然草生・不耕起栽培は,農業生産におけるエネルギー投入が極めて少なく,かつ土壌の肥沃度が高くなることが期待されている.しかしながら,自然草生利用・不耕起が成立する技術的な側面についての検証は十分に行われていない.本研究では,自然草生利用・不耕起圃場を対象として,その経営の実態,土壌炭素の集積,雑草植生,および土壌養分の年間の変化の側面について検討した.茨城県阿見町で実施されている自然草生利用・不耕起栽培(1998年開始,調査時は継続して11年目)での畑作野菜生産圃場(5圃場)を対象として,土壌炭素および窒素の層別分布,雑草の草生量,発生雑草種,作付体系,および作物収量について調査した.また,調査圃場に隣接するオカボ圃場(慣行栽培)および裸地圃場(除草剤利用による無植生維持)の土壌炭素含有量を測定し,比較対照とした.自然草生利用・不耕起圃場の0-2.5cm深の土壌では雑草草生による植物バイオマスの供給により慣行栽培圃場に比べて炭素蓄積が多いことを認めた.また,土壌無機態窒素についても自然草生利用・不耕起畑地で高い値を示しており,有機物蓄積に伴う養分供給能があることが認められた.自然草生利用・不耕起畑地における土壌肥沃度の向上には,雑草植生が圃場面に通年にわたり維持されることでミミズなどの土壌生物がニッチを確保し,土壌中での物質循環に貢献しているものと推察された.