2023 年 53 巻 2 号 p. 37-42
わが国における65歳以上の高齢者人口は総人口の29.1%を占め,世界最高の高齢化率を呈している.現在,国民の5人に1人は糖尿病もしくは糖尿病が疑われ,糖尿病は国民病と言っても過言ではない.さらに60歳以上の糖尿病患者も全体の76%と糖尿病患者の高齢化も急速に進んでいる.以前より糖尿病の治療目標は,血糖,血圧,脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重の維持および禁煙の遵守を行うことにより,糖尿病の合併症の発症,進展を阻止することである.近年の薬物治療の長足の進歩と大規模臨床試験で得られた心血管系イベント抑制や腎保護についてのエビデンスによって,糖尿病治療はこの目標に確実に近づいている.一方で,高齢化に伴って生じるサルコペニアやフレイルといった併存症や,糖尿病に起因するスティグマや社会的不利益,差別の克服が,糖尿病治療の最終目標である,「糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(QOL)の実現」への課題となっている.