抄録
沃化メチル57mg/kgを家兎の皮下に注射し,注射後48時間の変化を対照群と比較した.注射群も対照群も採血後48時間は絶食させたが,水は自由に与えた. 注射した11羽の家兎の全例に血清LDH活性の上昇がみられたが,そのうち顕著な脂血を起したものは5例,わずかに溷濁したと思われるもの3例,全く清澄のもの3例であった.注射した家兎に脂血を起すものと,清澄のものがあるが,その理由は不明である.顕著な脂血がみられた家兎の血漿TGは300mg/dl以上を示し,肝のTG含有量の増大,血漿FFAの上昇が証明された. 11羽の注射群の平均TGの濃度は対照に比べて約10倍に増加した.肝および腎のTG含有量も対照に比べて2倍増加したが,バラツキが大きいため,その差は有意でなかった. 血漿FFAは注射前の値に比べて有意に増加したが,48時間空腹にした対照群でもほぼ同様の上昇を示したので,注射による影響とはいいきれない. 腎周囲の脂肪組織のhormone sensitive lipaseの活性ならびに脂肪組織のFFAの含有量は注射群と対照群では有意差はなかった.この事実は上記の血漿FFAの上昇が対照の空腹群に比べて有意に増加していないことと相まって,沃化メチルが直後,あるいは間接に脂肪組織に作用して,脂肪分解を促進し血漿FFAの上昇をまねいたとはいいきれない. 注射群の血清LDHの活性は対照群に比べて約2倍に上昇した.注射群のLDHのアイソザイムはLDH-1,LDH-4が相対的に減少し,LDH-5は相対的に増加した.血清LDH活性値にアイソザイムのパーセントを乗じた絶対値では,LDH-5の増大だけが著しかった.すなわち沃化メチル注射に伴う,血清LDHの活性の増大は,LDH-5の増加によるものである.