産業医学
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振動病患者における冷水浸漬試験
張 正博
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1976 年 18 巻 5 号 p. 453-463

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抄録

現在振動病診断に利用されている冷水浸漬試験は多くの場合5℃の冷水に片手を手関節まで10分間浸漬し, 手指の皮膚温反応をみるという方法が採用されている.しかし, この方法では, 被検者に与える苦痛も大きく, 時として, 試験を中止せざるをえない場合も生ずる.そこで, 被検者の苦痛を軽減し, しかも検査精度を大きく落すことのない方法として, 10℃冷水10分間浸漬法の有効性と苦痛の程度について検討を加えた.
学生16名および振動病患者29名について, 水温5℃と10℃の二種の浸漬試験を行ない, 手指皮膚温反応を検討するとともに試験中の苦痛について五段階自己評価法によりその経過を調べた.その結果次のことが明らかとなった.
1) 10℃法における浸漬中止後の皮膚温の回復傾向は5℃法における回復傾向と有意の相関を示した.
2) 検査精度からみれば, 浸漬中止直後の3分間の回復傾向で評価すれば, 10℃法も有効である.とくにrecovery activity (回復能) とrewarming rate (3分間皮膚温平均上昇率) とには, 学生と患者との間に有意差がみとめられて, 指標として利用できる.
3) 苦痛についての自己評価では, 学生も患者も10℃法のほうが5℃法よりも苦痛が軽かった.苦痛のうち, 胸のしめつけ感は学生よりも患者のほうがより強く訴えた.
以上の結果から, 10℃法でrecovery activityないしrewarming rateを指標とするならば, 検査精度を大きく落すことなく, 被検者の苦痛は軽減できることが明らかとなった.

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© 社団法人 日本産業衛生学会
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