1996 年 38 巻 10 号 p. 912-931
19世紀になると,前世紀後半から始まった産業革命と国民国家という近代社会の2つの枠組みが定着し,これをベースに,近代科学の推進のための制度と体制の構築がはじまった。すなわち,従来上流階層の中でアマチュア的に進められてきた自然科学と,職人層によって継承されてきた技術が結びついて,軍事,産業,市民生活に大きな影響をあたえる科学技術の時代が到来したのである。政府や企業は積極的に,大学や研究所を設立し,技術教育の体制の充実に乗り出した。19世紀の末になると,世界的な政治と経済構造の転換,科学技術の大規模化·精密化をうけて,アメリカとドイツを中心に,科学アカデミーの改革,大規模な研究所や研究支援組織の設立など科学技術の大きな構造転換がなされた。