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集会報告
2012年日中企業知財交流会(第1回)参加報告
桐山 勉都築 泉中村 栄
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2013 年 55 巻 10 号 p. 778-781

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  • 日程    2012年9月10日(月)
  • 場所    第1部(14:00~15:45)北京大学英傑交流センター 第2部(16:00~18:00)北京大学博雅国際ホテル 第3部(18:30~20:30)北京大学博雅国際ホテル
  • 主催および後援    株式会社プロパティ,北京大学産業技術研究院,北京大学国際知識産権研究センター,北京知識産権サロン,思博知識産権サロン

1. 企業OBの立場からの一般参加報告

日中企業知財交流会の開催の経緯

中国専利信息年会(PIAC2012,第3回)が2012年9月11日~12日に北京市の国家会議中心において開催された。それに合わせて前日の午後に北京大学で2012年日中企業知財交流会(第1回)が開催された。中国における特許情報の専門家を牽引するキーマンを20人以上把握したいと思っていた矢先で,アジア特許情報研究会の伊藤徹男氏からお誘いを受けて参加した。中国の実情を定性的,定量的に把握する絶好の機会となった。

(1)中国知財への叡智な先読み

1996年8月に設立された株式会社プロパティの小川公人社長は,「今後中国の特許調査が活発に行われる時が必ずくる」との強い考えを持ち,北京にも事務所を設立された。その活動を通して,「中国,日本はお互いに相手を(根拠なく)恐れている」ということに気づかれた。中国人から見た日本は「成熟した知財制度を有し,総じて当業者のレベルが高い」との理由から恐れを抱き,一方日本人から見た中国は「独自の実案制度等を有しており,実情がよくわからないから不気味である」と,お互いが脅威となる相手に映っていた。そんな折,中国日本商会の分科会として2000年に発足した北京IPG(Intellectual Property Group,知的財産権問題研究グループ)もまた,中国企業の知財状況に関する情報を欲していることがわかった。そこで,2010年の北京JETROで開催されたIPGミーティングで,「日中の知財メンバーが交流する場を設けたらどうか」と小川氏が提案された。

(2)日中ともにWIN-WINな架け橋を求めて

PIAC2010においてプロパティ社の発表を聴いた北京大学の「知的財産基地」(2008年に中国国家知識産権局(SIPO)が北京大学内に設置した組織)に所属の,ある先生が小川氏に質問をされたことを発端に,知己のパイプが構築された。今回,第1回の日中企業知財交流会の構想が実現するまでには,約2年におよぶ地道な連携の積み重ねと2012年4月からの本格的な準備があったと聞く。日中間の諸般の事情にも関わらず,なんとか,日本側53社55名,中国側75社120名ほどの参加となった。周りの状況を常に見ていること,一旦向きが変わると一斉に周りも追随する,これもお国柄なのだろうか。最終的には,日中ともにWIN-WINな架け橋を求めて,専門家同士の直接的な意見交換の場(第1回)が実現したのである。

(3)中国の大きさの再認識と対外的なミッション基地の存在

中国の総人口は13億人以上であり日本の約10倍である。CN-PIUG-Chapter(中国特許情報ユーザーグループ支局)の登録メンバーが9月10日時点で1万人を超えていた。また北京市の特許庁管轄の北京知識産権サロン(北京市だけの日本版知的財産協会的組織)だけで400社ほどのメンバーがあることを,この交流会で知った。さらに,中国全土の知財関係の知識人の集まり(SNS)である思博知識産権サロン(MySIPO)の登録メンバー数が10万人を超えているという。これらのうちのごく一部の人はレベルが高いかもしれないと,PIAC2012とこの交流会の両方から推定した。平均レベルは低いかもしれないが,中国の当業界を牽引するキーマン的な20人のイメージは浮かんできた。

中国の知的財産環境はこの3年間でめまぐるしく変わっているが,さらに規模が桁外れで大きいことを再認識できた。2010年に公表した第十二次五か年計画では,2015年の特許出願数を約75万件と見込み,実用新案の出願数を約90万件と想定している。2011年の特許出願統計の実績は52万6,412件であり,驚くべき伸び率で増加している。これを支えている人材の多さを,PIAC2012とこの交流会の両方を通して検証できた。

特に,北京大学の中には,対外的交流を行うことをミッションとする「北京大学産業技術研究院」と「北京大学国際知識産権研究センター」が存在することを,この交流会に参加して初めて知った。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を実感した。

3部からなる構成

第1部(図1 参照)は,大学の知財関係者である3人の法学博士の講演発表であり,都築氏の報告を参照してほしい。第2部は日本企業と中国企業の講演発表であり,中村氏の報告を参照してほしい。第3部(図2 参照)は,10卓以上の円卓を囲んでの懇親会であり,各円卓には必ず両国の参加者がFace to Faceで意見を直接交換しあう工夫と雰囲気作りがなされていた。アジア特許情報研究会の伊藤徹男氏の発表とMySIPOの運営責任者の発表を聴いた。

図1 第1部の会場の雰囲気
図2 第3部の円卓形式懇親会の雰囲気

謝意と今後への希望

この交流会は,日本側の小川氏と中国側の2人の関係者の出会いと協働がなければ,実現しなかった。いわゆる,最初に井戸を掘られた3人に,この場を借りて,心から謝意を表したい。中国リスクを如実に垣間見ているが,再び日中の知財専門家が膝を付き合わせ,お互いのWIN-WIN型の将来人材育成像を見せ合う場が開催されることを強く願う。そして,中国の特許情報の品質をさらに高め,お互いの特許情報を尊重しあう相互リスペクトが実現するのを願ってやまない。将来に希望と夢を持つ限り,WIN-WIN型で協働できることはたくさんある。

(一般財団法人日本特許情報機構 桐山勉)

2. 大学の立場からの参加報告

ここでは,今回の日中企業知財交流会において,特に北京大学の院生が多数参加され,博士の方々が活躍された第1部を中心に紹介する。

交流会第1部:特許訴訟セミナー

第1部の中国特許訴訟セミナーは,北京大学英傑交流センターにおいて開催され,約2時間,北京大学の院生であり法学博士でもある3名の方々による未公開内容を含む論文の発表が行われた。発表内容は以下のとおりである。

  • •   「均等論の適用および制限,特許侵害と抗弁,特許の無効事由」
  • •   「権利請求の解釈,物品の侵害および間接侵害,中国特許法第47条の理解」
  • •   「方法特許の侵害判定,新規性の判断,創造性の判断」

いずれも高度な専門的研究の発表であった。中規模の教室であり,参加者は約130名,満席で,立ち見の参加者も多くいた。学生らしい聴講者も目立った。

発表は,大学で法学者として専門的に研究されている内容ということである。法解釈と実社会での業務との間をいかに埋め,これらの研究が実社会でどのように生かされるのか,今後,彼らがどのような場で活躍されるのか,大変興味があるところである。当日は未発表の内容を含むとのことで,配布資料をいただけなかったことは残念であった。

大学での知財教育と研究

筆者の所属する大阪工業大学知的財産学部および専門職大学院では,学生に実務能力を身に着けさせることを目標にプログラムを組んでおり,学生たちは,将来,弁理士,あるいは,企業の知財部門で活躍することを目標に勉学に励んでいる。教員には,実務家出身の教員以外にも,法学研究を専門とする研究畑出身の教員がおり,学生の研究指導や学外からの奨励・委託研究等において,適宜,協働して研究活動を行っている。しかし,理工系分野と異なり,欧米のように企業を巻き込んでの,実務畑と研究畑の人材交流が日本ではまだ不十分な段階と感じられる。実務能力を磨き,その感覚を身に着けるには,経験値が必要なため,現実的には,法解釈能力と実務能力との間はやや切り口が違う部分がある。

今回の第1部に出席した北京大学生・院生のかなりの方々が,引き続いての交流会にも出席していた。学生たちがこのような企業の方々が広く集う場に出席・交流・発言する機会があることは大変好ましい。若い方々の意欲が強く感じられた。

知財情報教育と人材育成

知財情報,特に特許情報を扱うために重要な知識・能力は,知財制度の基本知識,情報検索の基本知識・能力(センス),専門的な技術知識,に加え,言語(英語,可能ならプラス・アルファ),コミュニケーション能力,好奇心,である。今回の交流会では,中国からの参加者は若い人が目立ち,英語も堪能であり,若手の勢いを感じた。このような交流会や特許情報フェアには,日本からも,企業の若手のみならず大学生・大学院生等もどしどし参加し,広い世界に触れ,多くの人と交流し,自らの好奇心を刺激し,活躍の場を広げてもらいたいと思う。そのために,日常的な活動を通じ,身近なところにもできるだけ機会を設け,社会に前向きな感覚を身に着けた学生の育成に努力したい。そのような機会の可能性の1つとして,今回の交流会の意義は大変大きい。このたびの開催について,プロパティ社に深く感謝するとともに,今後も継続いただけるよう願っている。

(大阪工業大学大学院知的財産研究科 都築泉)

3. 企業の知財部門の立場からの参加報告

プロパティ社のご尽力により今年度初めて開催された日中企業知財交流会に参加させていただいた。企業の情報調査部門に籍を置く者の立場として感想を申し述べたい。

冒頭の桐山氏の説明にあるように,本交流会は3部構成で行われた。筆者は第2部の日中企業の知財管理に関するプレゼンテーション,第3部の交流会を中心に紹介したい。

交流会第2部:日中企業知財管理プレゼンテーション

第2部では日本企業・特許事務所5社(アイアット事務所,電気化学,神戸製鋼,エプソン:アジア特許研究会のメンバー中心)と中国企業(方正集団,ハイアール,百度,アイゴ)および官・大学(北京大学法科大学院,中国計算研究所)がそれぞれの立場から最近の知財トピック,自社での知財活動に関するプレゼンを行った。中国側の発表は,特許の価値実現と訴訟,自社の知財戦略,企業における特許の価値と評価,知財の商用化実践といった内容であった。発表を通して伝わってくる現在の中国企業の関心事はもっぱら「知財の活用」。本交流会の開催時にはちょうどアップル社とサムスン社の特許係争の話題で持ちきりだったこともあり,企業の富を生む源泉がまさに特許であり商標である,ライセンス等で収益を生む戦略的な特許出願を行っていく必要があると,知財活用の必然性をひたすら訴えていた。知財→活用→収益の構図である。もっぱら彼らの現在のお手本は米国であり,知財に関する考え方,スタンスが非常にアメリカ的であることを感じた。中国専利信息年会(PIAC)も今年で3回目,初回より参加しているが,この3年間で中国企業のスタンスが変化してきていることを感じる。自国にあった知財戦略を模索し,積極的に取り組んでいこうとする姿勢を感じた。

ちなみに,中国人のプレゼンテーションは声も大きくとにかく堂々としている。あのプレゼンの押しの強さは日本人にはないものである。

中国企業サーチャーのレベル

ここ数年の情報調査に関する現地レベルを測るものは,検索システムの進歩や企業の知財戦略に関するものがあり,これらを扱う「サーチャー」個々のレベルについては見えていなかった。今回の第3部の交流会を通して食事をしながら現地企業のサーチャーたちと話をする機会をいただき,彼らに直接サーチのスキルアップに関する質問をしてみた。

現地でのサーチスキルアップを行う機会については日本に比してまだまだの感がある。SIPOの専利検索センターのセミナー等を受講した後は独学(OJT?)で業務を行っている者が多く,専利検索センターの調査であれば当然「特許性調査」が主体であろう(侵害防止調査等についてはあまり理解していないようであった)。現地での育成が調査のPDCAで言うならばDOの部分から入っており,目的に応じた調査の必要性,目的別の調査手法を体系的に教えていくカリキュラムがないのではないかと推察される。

知的財産権に対してリスペクトし→調査の必要性を理解すること→理にかなった調査の実行が必要であると考える。今後彼らの中でキーマンとなっていく人たちを育成していくことが中国での知財リスクを下げる意味で日本にとっても必要なことではないか。一方,実は水面下にいる(のかもしれない)中国のキーマンたちも中国国外の同業者と交流,意見交換をしていけば全体としてのレベルはさらに上がっていくはずである。

最近では現地の特許事務所が日本の調査会社と連携して彼らの育成に手をつけ始めていると聞いた。日本のJETRO等との連携も選択肢の1つとして考え,体系的な育成を行っていってほしいと願うものである。

今回のような交流会が開催できたことは,中国にパイプをお持ちのプロパティ社だからこそできたのかもしれない。当日開催にこぎつけるまでの同社スタッフの皆様のご尽力には頭が下がった。「とても有意義な会でした,ぜひ継続実施を」と申し上げた時のスタッフの皆様の涙が忘れられない。

(旭化成株式会社新事業本部知的財産部 技術情報グループ 中村栄)

 
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