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図書紹介
図書紹介:『リーガル・リサーチ第4版』
山本 順一
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2012 年 55 巻 3 号 p. 221

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  • 『リーガル・リサーチ第4版』
  • いしかわまりこ,藤井康子,村井のり子●著
  • 指宿信,井田良,山野目章夫●監修
  • 日本評論社,2012年,A5判,435p.,1,785円(税込)
  • ISBN 978-4-535-51892-6

本書は,ロースクール付設の図書室に配置された専門職員はもとより,また大学や政府,地方公共団体,弁護士会などで働くいわゆる“ローライブラリアン”の座右の書としてこれまで重宝されてきた。最近では都道府県立図書館や政令指定都市,中核市などの公立図書館でも,ビジネス支援サービスや医療情報サービス等と並んで法情報提供サービスは重要な業務の柱となっている。ある日本海側の県立図書館の若手の司書が私的に購入し,業務に利用していたかなりくたびれた本書の旧版に多くの書き込みがなされていたのを思い出す。2003(平成15)年に初版が登場した本書は,いまやこれからロービジネスや法実務に関わろうとしている駆け出しからプロに至るまで,法情報を日常的に取り扱う者にとっては必須不可欠のツールとなってしまった(版を重ねての本書の成長は,随所に挟み込まれているQ&Aにもあらわれている)。

法学研究,法実務に限られるわけではないが,最近では通常の情報利用者は,図書館や冊子体を迂回し,まずはオフィスや研究室,自宅にいながらインターネット上に公開されている無償の法情報データベース,法情報デジタルコンテンツに飛びつく。しかる後に専門的な定評のある参考図書,専門書,専門雑誌に向かう。本書も,旧版と比較したとき,このような最近の利用者動向を的確に把握し,それにそって伝統的かつ基本的な冊子体(紙媒体)の法情報資源を的確に押さえつつも,デジタル法情報資源に大きく軸足を移し,利用価値を高めている。

構成を簡単に紹介しておく。情報資源の特性・利用法とリサーチの基礎知識・手法・手順を簡潔に整理した「第1部 リサーチの方法」,国内外の法規範の存在態様と生成消滅の過程およびアナログ・デジタルの具体的法令情報源と探索法をていねいに解説した「第2部 法令を調べる」,そして国内の裁判と裁判所の仕組みおよび判例のアナログ・デジタルの情報源とその探索法・引用形式を示した「第3部 判例を調べる」が本書前半を占める。第2部,第3部は,いわゆる法学研究,法実務にとっては,一次的法情報資源(primary law information resources)を取り扱っている。

説得力のある法律論文を書いたり,その分野については素人の裁判官をリーガル・シンキングと呼ばれる思惟様式にそって合理的に誘導し勝訴するには,法令・判例という無機質な情報では不十分である。特定の法現象に密接に関係する二次的法情報資源(secondary law information resources)の重要性はいうまでもない。本書後半の「第4部 文献を調べる」はこの二次的法情報資源である,法律論文を含む学術論文,新聞や図書,政府情報などのテキスト情報,さらには特定の人物や組織団体など証人や鑑定にもつながる動的情報源の探索法をも手ほどきし,便覧等も添えている。適宜配置された図表や一覧は理解を助け,本書の活用可能性を高めている。付録の文献略語表もそれなりに便利である。

板寺一太郎,山本信男など優れた先人は少なからず存在したが,この国のローライブラリアンの第一世代とも呼べそうな著者の3人が育てている本書については,今後も適切な間隔,頻度でのアップデートを強くお願いしたい。

(桃山学院大学経営学部 山本順一)

 
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